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[No.14737] ストレスに負けない健康の知識 投稿者:男爵  投稿日:2010/02/19(Fri) 09:38
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著者高田明和は三田の大学を出て浜松医科大学名誉教授

医学の世界は学問の進歩が激しい。
10年前の常識は、いまでは非常識なんてこともある。
ある薬や食べ物はよいとされた時代があり、いまはその反対に害があると言われることがある。
そもそも 少量なら薬、大量なら毒 というのは酒だけでなく
漢方の世界でも昔から言われていたこと。
上野の科学博物館にも、そんな展示があります。

●脳の栄養失調
 1999年の年間自殺者は33000人を越し過去最悪。日本陸軍史上最悪といわれたインパール作戦の30000人の死者を上回った。
精神の安定には脳内物質のセロトニンが必要である。現在のうつ病の薬のほとんどは脳内のセロトニンの作用を高める物質である。セロトニンは肉に含まれるアミノ酸のトリプトファンからできる。トリプトファンは我々の体でつくることはできないから、牛乳などの食べ物からとる以外にはない。
トリプトファンは、普通では脳内に入りにくい。トリプトファンが脳内に入るには、ブドウ糖が必要である。とくに、食後のデザートとして甘いものをとることはブドウ糖を供給するという点で理屈にかなっている。
脳を栄養失調にすれば、うつ病、痴呆など脳の異常はなんでも起こる。

●減塩による死亡率
 いったい塩辛いものを食べるのは本当に健康に悪いのだろうか。
そもそも食塩と血圧の関係が注目されたのは、ある種の遺伝的に変異したラットが食塩に非常に感受性があり、食塩を制限すれば脳出血などにならないという研究から来ている。しかし人間の場合、高血圧の人でも食塩感受性の高い人は多くないということがわかってきた。
アメリカの「サイエンス」という雑誌に次のような論文が発表された。1980年代の56の研究の統計は、血圧が正常な人にとって極度の食塩の制限はほとんどよい効果がない。食塩を制限すると、単に心疾患による死亡率が増えるだけでなく、全体の死亡率も増えるという結果が得られている。

●喫煙とうつ病の関係
 禁煙できない最大の理由は、たばこを吸うことにより快感、または精神の安定が得られることにある。
快感を与える脳内の物質であるドーバミンの動態を調べると、ニコチンはストレス時にドーバミンの神経抹消からの放出を増やすことがわかった。これはコカインや覚せい剤などによる刺激の仕組みと同じである。
これがたばこは麻薬と同じ依存性があると主張される理由でもある。
また、ニコチンはうつ病の際に減少しているセロトニンの増加も引き起こす。このためにうつ病の人、ストレスにさらされている人はたばこに手を出す回数が増えるのである。
このように、禁煙が精神の安定に関係するということがこの問題を難しくしている。喫煙利利点とも思えることを述べると、禁煙を主張する人たちから抗議がくる。
 私の知人の某教授は禁煙するとイライラ症状になり、その夫人からたばこを吸うよう勧められたが、あれは正しい処置だったかもしれない。

●薬の効果に人種差
 欧米の医学研究は白人を対象にしているから、そこで効く薬が日本人には効かないことがある。
アメリカで得られた結果を日本人にそのまま当てはまるだろうか。また、それ以外の病気の治療法で、日本とアメリカでは異なる方法が用いられなければならない場合もあるだろう。
この著者は、とくに食べ物について欧米で得られた結果を、そのまま日本に適用する危険について危惧を持っている。

●絶望感が病気を招く
 「物事を楽観的に考える人は長生きだ」という感じを持つ人は多いだろう。
では、絶望感をもつ人は病気になりやすいのだろうか。
統計的には、絶望感をもっている人は高血圧になったり、うつ病になる確率が高いという研究報告がある。
ローマ時代の医学者ガレンは「がんはくよくよ悩む人に起きやすい」といっている。この言葉を聞くと、ことの真偽はともなく、がんになるくらいなら悩まないほうがよいと思うだろう。


[No.15379] Re: ストレスに負けない健康の知識 投稿者:男爵  投稿日:2010/06/18(Fri) 09:55
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高田明和: ストレスに負けない健康の知識 角川選書

また、この本を読みました。
よい本は何度読んでもよいのです。

●芸術が役立つ医学教育
 ここ数年で、大学のカリキュラムは著しく変化した。その最大のものは、いわゆる教養課程の廃止であろう。とくに学生が大学に入って、自分の専門とまったく関係ない教養科目を教えられるので、大学の講義そのものに興味を失うという意見が、この変革を生んだ。
 さらに大学生の多くは強制されない限り講義に出ない。根底にある考えは「どうせ忘れて、人生の役に立たない」というものである。
 ところが、アメリカで教育と知能指数の関係に関する研究が盛んになり、知能指数は成人になっても、教育の時間数に比例して増加することが確かめられた。また、脳細胞は刺激すれば大人でも数を増すことがわかってきた。
 つまり、教育とは脳を活性化することである。忘れてもよい。勉強するという努力が「活性化された脳として残るのである。したがって、社会に出て使わないかもしれない外国語を習うのも、新しい言語の仕組み、その背後にある文化と考え方の相違などを学ぶことにより、脳を著しく活性化しているのである。
 さらに重要なことは、芸術のもたらす効果だ。最近、イギリスでは医学部の教育に芸術、とくに文学を取り入れようとしている。ロンドン大学の健康学部のカルマン
教授は、雑誌「ランセット」で、「芸術の勉強は倫理に通じる。健康管理と倫理の関係は、医学と倫理哲学の融合によってもちらされる」と述べている。また、文学の教育が、病める人に対する感情、反応を育てるのに役立つというのである。
 近年、医学部学生による不祥事が目立っている。しかしこれは、医学教育から文科系の視点を排除したことにも問題があるのではないだろうか。
「役に立たない」と思われる教育が本当に役に立たないとは限らない。それは脳と心に活性をもたらすものとして、学ぶものの心に一生、残される。短絡的に「役に立つ教育」に視点を置くような改革を進めた政策の失敗は、すぐに正されるべきであろう。