すでに 源氏物語の訳本を何度か読み比べて また解説書なども受験生向きから中学生向きまで いろいろ目に付くものを読んでいます。
瀬戸内寂聴訳の源氏物語は全10巻 いまちょうど第5巻を読み終えました。 本のうしろに系図とか寝殿造の図とか衣装図や簡単な用語集がついていますが 何より良いのは、たとえば第5巻では 「蛍」「常夏」「篝火」「行幸」「藤袴」「真木柱」「梅枝」「藤裏葉」の各帖の要旨と原文には書いていないこと、しかし、読者はそこから推察できることなどをわかりやすく解説していることです。
第4巻「玉鬘」からこの5巻の「真木柱」までは、玉鬘の身辺のことが多く語られるため 玉鬘十帖と呼ばれるのだそうです。
寂しく死んでいった夕顔の忘れ形見の玉鬘が召使に連れられて行った先の九州で美しく成長し このまま田舎でうずもれさせるのは可哀想と、地方豪族の迫る追っ手から必死に船で逃げて都まで来たのはいいが 源氏に会わせる手だても見つからず、おつきのものたちが困っている場面で しかも、狭い宿に押し込められ、相部屋をよぎなくされたとき(彼らの最大のピンチ) その相部屋に一緒になった相手が、なんと源氏の命を受けて玉鬘を探しに来た召使だったとは まるで現代の小説ロマンやテレビドラマみたいですが ともかく、苦労した玉鬘一行は今をときめく源氏の屋敷にひきとられ、源氏と玉鬘は一緒に暮らすことになります。
本当の父親は内大臣(かつての頭中将のこと、葵上の兄弟)で、おりをみて源氏は内大臣にひきあわせるわけです。 そして、内大臣はこの突然現れた美しい娘こそ帝の妃にと思うのだが結局果たせず、源氏のほうは別の娘を帝の妃にしてしまいとても悔しがる。でも、玉鬘にふさわしい婿も現れ、その婿の正妻が怒って子供たちを連れて実家に帰ってしまう修羅場もあるのです。
そんなこんなで、内大臣は娘の雲居雁が幼馴染の夕霧(源氏と葵上の息子)との相思相愛を邪魔するが、二人の辛抱強さに負けて、とうとう一緒にさせるところまで、この5巻には書いてありました。
若い玉鬘が物語本に熱中してそれを書き写すのを見た養父の源氏は彼女に自分の物語論を話します。 「物語は作りもので根も葉もないこととわかっていても、上手な作者の手になると本当のように思って感動する。日本紀などの歴史書はほんの一部にしかすぎず、物語こそ神代からこの世に起こったあらゆることが書いてあり、善悪いずれも、この世に生きていく人の有様の、見逃しにできないことや、聞き流しできない心に残ったことなどを書いてある。善人ばかり書いたり、あまり誇張した表現はかえって興をそぐ」 この物語論こそ、作者の紫式部の物語論なのです。 作者紫式部は、ほかのところでも、虚構と見せかけた小説のほうが、事実を書いたという歴史書よりも人生の真実を書いていると(登場人物の口を借りて)述べています。
源氏物語の現代訳にはいるきっかけを与えてくださった「あやさん」に感謝します。
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