渡辺淳一:鈍感力 集英社
健康であるためにもっとも大切なことは、いつも全身の血がさらさらと流れることです。 そのためには、あまりくよくよせず、他人に嫌なことをいわれても、すぐ忘れる。 このいい意味での鈍さが、血の流れをスムースに保つ原因になるのです。
著者のいた大学病院の外科の教授は優秀であったが、手術中に部下の医局員に小言をいう欠点があった。たとえば「手が遅い」とか「どこを見てるんだ」など小言をいうのだった。言われた方では気にして泣きたくなるものだ。 そんな中で、S先生は一番叱られていた。猫背で何となく情けない感じでいかにも叱られやすそうなタイプであった。 教授が「ぶつぶつ」と小言をいっても、S先生は必ず「はいはい」と返事をしていた。 S先生の素晴らしいところは、手術中にあれだけ叱られたのに、手術が終わるとケロリと忘れて気持ちよさそうに風呂に入り、そのあと医局へ戻るとみんなと楽しそうに酒を飲みながら、手術のことやその他いろいろなことを楽しそうに話すのであった。 それに対して教授の小言を一度か二度聞いただけでたちまち落ち込み暗い顔になる人もいた。 S先生はそのうち教授の手術を身近に見て要点を覚え、のちに医局で一番手術がうまくなったのであった。
その後S先生は大病院の院長となり現在は名誉理事長となった。 同門会でひさしぶりに会ったが、S先生はあいかわず「はいはい」と返事をするのを見た著者は気がついた。 S先生はもともと、他人の話はまともに聞いていなかったようだ。 相手のいうことをさほど真剣に聞かない。だから教授にあれだけ「ぶつぶつ」言われてもほとんど響かず、聞き流すことができたに違いない。 みなさんもお気づきかと思いますが、だいたい、年齢をとっても元気な人は、ほとんど他人話は聞きません。 たまに聞いていても「はいはい」と聞き流しているだけで、その分、自己中というか、ナルシスティックです。 悪くいうと、自分勝手ともいおうが、このあまり他人の言うことを気にしない、聞かないところが健康の秘訣でもあるのである。 要するに、あまりくよくよせず、他人に嫌なことを言われてもすぐ忘れる。このいい意味での鈍さが、精神の安定と心地よさにつながり、ひいてはそれが血の流れをスムースに保つことにもなるのです。
みんなと一緒に泊まった宿で、同じ食事を食べたのに 一人だけ食中毒にならなかった男。 著者は、おそらく彼は少し貧しい家に育って、子どもの時から雑菌をある程度食べていたのだろうと推定する。 子どもの時から雑菌の多い食べ物を食べていたから、体内にすでに強い抵抗力ができていたのだろう。 最近の日本人は抵抗力がない。それは日本の衛生環境がよいからで、それ自体悪いことではないのだが、体の抵抗力が弱ってきてわずかの菌で発病するのだろう。 こういう男もいる。生物の多様性 これから天変地異がおきて人類の多数が死滅しても彼だけは生き残るだろう。
結婚生活は鈍感力がないと続かない。 鈍感力は忍耐に繋がる。 許すことは鈍感力である。 鈍感力のある人は他人のちょっとしたくせなどを気にしない。鈍感力のない人は気になる。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
よく眠り、すっきり起きられる。 この睡眠力こそ、人間の基本的な能力そのものである。 睡眠力なくして、人間が健康であり、人を愛し、仕事に専念することはできない。 よく眠れること、これもまた、まぎれもない才能なのである。
数ある鈍感力のなかでも、その中心となるのが、よく眠れることである。 これを睡眠力と名づけると、睡眠力はすべての健康と活動の源である。 睡眠力なくして、人間が健康であり、人を愛し、仕事に専念することはできない。 よく眠れること、これもまたまぎれもなく才能なのである。 作家であり医学を学んだ人の文章なので、合理的な説明になっている。 鈍感力はすばらしい。 ぎゃくにいえば、感覚の鋭い人、過剰反応する人は、周りと協調できずに長生きしないかもしれない。
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