[No.15365]
Re: 白い春風のように/訪問看護婦に誇りを持って
投稿者:男爵
投稿日:2010/06/15(Tue) 07:55
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このテーマ、もう少し続けます。
医療設備の整った病院に入ったのに、なぜ患者は暗い表情をするのだろう。 完全看護なので家族は面会時間が終われば帰ってしまう。長い夜を一人ですごさなければならない。 朝になって、治療が始まると、いい患者にならなければ...と自分を押し殺し、「はい、はい」と医師や看護師の言うことを聞く患者。苦痛もぐっと我慢しているにちがいない。 そのおとなしい患者が、家族に対して豹変して「遅いじゃないか、何をしていたんだ」と怒鳴り、時期でもないのに「いますぐメロンを買って来い」とわがままを言って困らせたりする。
患者にとって病院とは、上司の家に挨拶に行って無理やり床の間の前に座らされたような、なんとも居心地の悪い場所ではないのか。 できるだけその人らしく治療ができるようにと著者の看護師たちが気を配っても、それ以上に患者が気遣って、特に医師の前に出ると、借りてきた猫のように変身しているのではないだろうか。
訪問看護を経験すると驚きの連続であった。 想像以上に患者の状態は病院とは違っていた。緊張していないから顔つきからして違っていた。 さらに驚いたのは「いやだ」という言葉をはっきり口に出すということである。「痛い、何するだ」と大声を出す患者もいた。家族のほうも「そんなことされて歩けるようになったら困るで」とリハビリを拒否するケースもあったという。ベッドで寝たきりのほが手がかからないからというわけ(某施設の話みたい)。
こんなことは病院では考えられないことだ。治療がすめばリハビリをし、できるだけ自立した生活をめざす。寝たきりより少しでも座位を、座位ができれば立位を、と著者たちはごく自然に考えてきた。 それなのに余計なことをすると、著者たちの訪問すら拒否されそうな勢いである。 「在宅看護の指導をする」などといった考えは引っ込めて、わかりやすい言葉での説明を繰り返しながら、家族や患者に受け入れられる努力がまず必要だった。
☆ ☆
92歳の夫を世話する88歳の妻のケース 夫は末期の胃がんで、自宅で最後を迎えることを希望している。 一種のターミナルケアといえるだろう。点滴に痛み止めなどを加えている。
夫は痩せて骨ばるようになったほか、腰に床ずれができかかっている。 そこを見るために、壁際に向いてもらう。横向きの姿勢を長く続けるのは体力のおちている患者にとってはなかなか大変である。 「おじいさん、その紐を使いなさいよ」「いや、なに、そんなものは...」「大丈夫だろうと思って、紐を結わえ付けたのに、使わない。私のいうことなんか聞かないんだからねえ」と妻はこぼす。 夫は「そんなもののお世話にならなくてもまだ大丈夫」というところか。 顔はやや苦痛でゆがんでいても愚痴をこぼさない。我慢強い人なのである。
妻のとりとめのない話を聞いてあげるのも、いつも病人相手ではストレスもたまるであろうし、一人で看護に当たる不安もあるから、老夫婦二人のためになっている。妻は家事を一人でこなし、ヘルパーなど利用していない。医療保険の訪問看護のみ利用している。 今後、痛みが強くなったり、呼吸困難が生じたりすれば、妻一人では大変なので、そのときはヘルパーに入ってもらい、著者たちもできるだけ頻繁に訪問し妻を支えることになるだろう。
この二人の老老介護はうまくいっているケースである。妻は夫を自宅で診ることをさほど大変だと思っていないし、看護疲れなども今のところない。 それは夫がよい病人だからであろう。寝たきりではあるが、小柄でやせていて軽いから、妻が夫の体を拭くときでも動かすのが楽である。自分でも手足は動かせる。もし、大柄で重くて、脳梗塞などの後遺症があり半身麻痺なら、いくら本人の希望があっても家で看取るのは難しくなる。 夫は排泄の感覚もあり、求めに応じて便器を使用しているから、おむつ交換の必要もない。しかも、我慢づよくわがままも言わない。ぼけてもいない。 妻としても、夫を看取ってから自分ひとりで暮らすつもりである。それがうまくいかなくなったら東京に住む息子のところに身を寄せてもいいと考えている。
今後、妻に最後まで自宅で診てほしいと思う夫はダイエットしなければいけない。男女をとわず看護に一番嫌われるのはデブなのである。そして、妻を先に死なせないように、定年と同時に離婚されないよう夫は用心が肝要。 妻を大事しておけば、将来大事にしてくれるはず。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー この本には ほかにもいろいろなケースが紹介されていた。 両足の膝がうまく曲がらず、歩けないため、家の中では いざって移動しているE子さん。頭はしっかりしている。 トイレまで行くのは大変なので、紙おむつを使って、ごみ袋に捨てている。 ヘルパーさんから 「介護保険を使って、ベッドもポータブルトイレも入れるよう強く勧めてください」と著者は頼まれる。 しかし、E子さんはこのままでいいという。万年床よりべっドの方が清潔だと考えるのはヘルパーだが、狭いところにベッドを入れたら足の踏み場もなくなる。いまの配置はテレビも電話も手の届く範囲にあるから本人には一番便利なのである。 紙おむつを捨てるまでは自分でできるE子さん ポータブルトイレに変えたら、たまった中身を捨てなければならない。そうすると一日おきのヘルパーさんは毎日来てもらうように変えなければならない。そうなると、(予算の関係で)ショートスティやデイサービスの利用回数を減らさないといけない。 といろいろ考えて、著者は現在のスタイルが本人にとっても一番よいと判断する。 E子さんには息子がいて、たまには顔を出すと彼女も嬉しいのだが全然姿を見せない。それが、彼女の隠された不満だった。 それぞれの家族には、そうなるまでの歴史があった。
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