[No.15913]
Re: 吉川潮:流行歌 西條八十物語
投稿者:男爵
投稿日:2010/10/12(Tue) 10:55
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西條八十は映画「愛染かつらが」の主題曲を、作家川口の意志だからといって
どうしても西條八十につくってもらいたいと軽井沢まで頼みに来る。
それも明日までにというから大変。
ともかく食事をしようということになり
軽井沢まで来たコロンビアのディレクターの山内と、鶏肉や山菜を焼く料理を食べた。
酒を飲んだのがまずかった。西條が気がついたのは朝だった。
山内に詩を渡すまでに2時間もない。
そこで苦肉の策を思いついた。
佐藤惣之助の作詞法である。
歌詞の特徴はあくまでも自由闊達、内容に細かい神経をつかわず、ナンセンスと思われることでも勢いで書き抜いてしまう。
たとえば「青い背広」には、「紅い椿で 瞳もぬれる」とか、「涙ぐみつつ 朗かに唄う 愛と恋との 一夜の哀歌」なとどいう意味不明の歌詞もある。
曲を付けた古賀が「作曲しながら珍妙な歌だと思いましたよ」と言っていたが、それでもヒットするのだから、大衆の心を捉える魅力があるのだろう。
「旅の夜風」
花も嵐も 踏み越えて
行くが男の 生きる途
泣いてくれるな ほろほろ鳥よ
月の比叡を 独り行く
ほろほろ鳥は、高野山に因んだ琵琶歌「石童丸」に「ほろほろと鳴く山鳥の声聞けば、父かとぞおもう母かとぞおもう」という和歌があったのを思い出した。
この山鳥の歌は、中学校唱歌で行基作とされていた。
「青い山脈」の歌詞で「若く明るい歌声に 雪崩は消える 花も咲く」という一節がある。
これはナンセンスだという人もいるが、歌う人はそんなことを気にしていないようだ。
西條は「軍国主義は雪崩のように消えた」という意味をこめて、この作詞を作ったという。
「青い山脈」の作者石坂洋次郎は小説「若い人」で軍部からにらまれ、戦後にやっとのびのびと小説を書けるようになる。
若い人の舞台は函館になっているが、本当は石坂は自分が教師をした横手の女学校を舞台にしたかったのだが、地元に迷惑がかかることをおそれて小説の舞台を横手にしなかったと後で述べている。
西條にしても、自分の作詞をしめつけていた軍部が消えてしまったことを喜んでいたのだろう。