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[No.131] サマセット・モーム「女ごころ」 投稿者:   投稿日:2011/11/18(Fri) 11:34
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男女間の事と云うのは、得てして思いがけない方向へ展開していくのが常のようだ。とは知っていながら、語りの巧さについ乗せられて、あっと云う間に読み通してしまった。

 そんな小説が、サマセットモームの「女ごころ」だ。翻訳には名手と謳われる龍口直太郎があたった。

 またタイトルの付け方がいい。原題は何の変哲もない「丘の上の別荘」というのだが、訳者が風のまにまに揺れ動く女心がテーマだとさとり、あえて上記のように変えたらしい。

 美しく若く裕福な未亡人メアリのまわりには、三人の男がいる。なかでも目立つのは年の差の違いこそあれ、将来インドのベンガル知事のいすを約束されたスウィフトで、ふつう考えれば大本命である。

 ところが世の中なかなか常識通りには行かぬものらしい。この女が過失で、オーストリアからの亡命青年を死なせてしまったことがきっかけで、彼女の運命は百八十度の転換をする。

 経緯は省略するが、彼女自身、悪評サクサクのこのドンファン、ロウリイには日頃から十分警戒はしていたはずなのだが…。

 訳者は、一度、作品の舞台となったイタリアのトスカーナ地方、今では日本人団体客にもお馴染みのフィレンツェを訪れ、その別荘たらゆう紋をいくつか見て回ったらしいが、この丘の上での印象は、下界のウッフィッツィ美術館よりずっと素晴らしかったと同書の解説で述懐している。

 あっしもこの丘には上がったが、本当に素晴らしい眺めで、今でも目にしっかりと焼き付いている。この風景がさなきだに繊細な女ごころを、狂わせでもしたのだろうか。