永六輔:温泉に行こう!KKベストセラーズ地
温泉で地域おこし
観光客は減っているが、地元の高齢者は増える。 そこで有志がケアタウン浅間温泉というNPOを結成した。 高齢者をただ預かるだけではない。 リハビリや温泉の力で、体力や気力を保つ。 介護に明け暮れる家族も温泉で疲れをいやしてほしい。
浅間温泉全体を介護といやしの町につくりかえていく。
それはいいのだが この本の中で永六輔が三波春夫に注文したことが気になった。
永六輔は三波に何十年もやってほしいと言い続けたが、とうとうやってもらえなかったことがある。 それは「ちゃんちきおけさ」というあの歌を 三波春夫がきれいな着物を着て、一生懸命歌って大ヒットしたが それを聞いた一般のおじさんたちは、ガード下の飲み屋で、歌詞の通りに 小皿をたたいて歌っていたのだ。
そういう光景を見ていた永六輔は、三波に 「ちゃんちきおけさ」を、三波自身が小皿をたたいて歌ってほしいと頼んだ。 しかし、三波は「とんでもない」と言ってとりあわなかった。
「永さん、歌というのは、そういうものではありません。私がきれいな着物を着て、みなさんに夢を見てもらいながら、きちんとオーケストラーで歌う... そういうのが、私のちゃんちきおけさです」
それはそれで、いいんです。 ただ、別なところで、「ちゃんちきおけさ」を小皿たたいて、ひとりで寂しそうに歌ってる三波さんが聞きたいんだ、と永六輔が言ったら 「私はニッコリ笑って歌います」「私は寂しくなんかございませんから」と切りかえされたという。
永六輔は本の中で続ける。三波春夫の着ている派手な着物は趣味が悪い。 男には、もっとすっきりした粋な着物があるんだから。 たとえ話をすると、日光東照宮みたいなのも日本である。 あのゴテゴテして、キンキラキンの建物を造ったのも日本の職人。 かたや、桂離宮のように研ぎ澄まされた感性というか、無駄なものをいっさい省いたそういう建物も日本の職人技。 どっちも日本だけど、好き嫌いってあるじゃないですか。
だからたぶん、日光東照宮の好きな人は、三波春夫が好きなんでしょう。あのコテコテしているのが好きなんですね。 で、ぼくは桂離宮派です。木綿の藍染めでけっこうです。 ぼくが着ているこの服も、なにげない藍染めの刺子半纏ですけれど、パリのオペラ座にオペラを見に行っても、あちらの女の人が集まってくるんですよ。「ちょっとさわっていいですか」なんて言って。
桂離宮の好きな永六輔は 三波に日光東照宮もいいが、たまに桂離宮にかえてみろと言う。 それは、三波がせっかくつくりあげてきたイメージを壊すことになる。 無責任な永六輔の発言は、それでは反対に 桂離宮の永六輔をたまにゴテゴテの日光東照宮にかえてみろと言われたらどうするのだろう。
あの淡谷のり子が化粧姿で舞台に上がって歌うのは お客に夢を与えるからだといって 憲兵から注意されても化粧はやめなかったという。
芸人の誇りと意志を、簡単に考えている永六輔のワガママ。 彼もやはりエゴイストだった一面を発見した。
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