「手塚治虫昆虫図鑑」のセミの項をみると、松尾芭蕉の名句『静さや岩にしみいる蝉の声』のセミを茂吉がアブラゼミと断定したのは間違いで、ニイニイゼミとしているのは 頷ける。
しかし別の個所で、「彼の地においては、キリギリスもセミも混同されていて、両者ははっきりと区別されていないようである。」と書いてあるが、そうであろうか。
あっしらが旅行先でイギリス人にセミを英語でなんというと尋ねたらただしく、cicadaと発音した。けっしてlocustなどとは云わなかった。
矢島稔・松本零士「昆虫おもしろブック」のセミの項ではおもしろいエピソードが載っている。
ドイツから上野動物園にキリンがやって来たとき、園長が付添いのドイツ人飼育係にご苦労賃になにかやろうといったら、あのヤツデの木を下さい、と云ったとか。
みると、その木でアブラゼミが鳴いていたので、大笑いとなった。かれはてっきり木が鳴いているものと思ったらしい。
そのほかにも、セミを知らないので珍しい声で鳴く鳥だと追い回したヨーロッパ人もあったとか。
やはり虫屋の奥本大三郎は「虫の春秋」で、セミの鳴き声の研究をしている。寒いパリでは、シ、ガ、ルと鳴き、南仏ではセゴ、セゴと鳴くという。セゴセゴは、鋸で挽け、鋸で挽けと云う意味になるそうで、一方ファーブルに耳にはフォッシュ、フォッシュ、つまり麦を刈れ、麦を刈れと聞こえたよし。
また、こんな眉唾みたいなことも書いてある。今はツクツクボウシと云って誰も怪しまないが、平安時代には、クツクツボウシと云っていたんだとか。誰かが云い間違えて、クツクツがツクツクになってしまったという。
大三郎によると、ヘルマンヘッセには昆虫少年を主人公にした短編があると云うので、自身かなりの昆虫少年だった可能性が高い。
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