> > 大野茂:サンデーとマガジン、光文社新書400
> こうして小学館は翌年5月5日に新しい週刊誌「少年サンデー」を出すことにして準備をはじめた。 > しかし、どこでかぎつけたのか、講談社も対抗して「少年マガジン」を発行することになった。
準備十分の「少年サンデー」を追いかける形で 「少年マガジン」も健闘した。
やがて、「少年マガジン」も赤字を出さなくなり 順調に思われたのだが、世の中簡単ではない。 「少年マガジン」はピンチになる。
人気マンガの「8マン」を描いていた桑田次郎が、拳銃不法所持で警察に逮捕された。 8マンは、警視庁捜査一課の刑事である。それが警視庁に捕まってしまっては、シャレにもならない。 緊急役員会議が招集され、「8マン」の打ち切り決定がくだされた。
編集者内田が、桑田次郎に8マン打ち切りの事実を伝えに大塚署に行った。 係官の呼び出しの声が響いた。 「8号室、面会」 8マンが8号室に拘留されたのは、偶然だったのか、それとも意図的なものだったのか。 「ブラック・ジョークにしてはきつすぎる」そう内田は思った。
このころ手塚から、連載中の「W3(ワンダースリー)」が盗作に遭っている という電話があった。 手塚の「W3」に出てくる宇宙リスとそっくりなキャラクターが、TBSで放送中の「宇宙少年ソラン」に出ているという。 聞けば、マガジンがTBSとタイアップして「ソラン」の掲載を予定しているじゃないか。 マガジン編集部も、TBSに対して厳重に抗議して「ソラン」の掲載を拒否してほしい。 そうでなければ連載をやめるという強い手塚の態度だった。
これはある放送作家が手塚からアイデアを聞いてうっかりTBSに話してしまったらしい。 少年マガジン編集部は「8マン」以来TBSとの良好な関係を続けてきたので、TBSに「ソラン」の中止は要求せず、結局手塚は「W3」の連載をやめてしまった。 あとで、手塚は「W3」を「少年サンデー」に連載することになる。
「8マン」打ち切り、「W3」移籍事件というダブルパンチを受けて窮地に立たされたところに 「ハリスの旋風」のちばてつやが結婚して新婚旅行で長期休載となり、本来おめでたい出来事までマガジンには冷たい風が吹き 人気連載は3つとも一度になくなってしまった。
そこへ 円谷プロダクションがTBSで放送するため怪獣テレビ映画「ウルトラQ」を作ったのだが 会社の評判は悪く、かれこれ一年間もお蔵入りになっていた。 スタッフは自信を持っている。これを「少年マガジン」で取り上げてくれないかと 相談を持ちかけられたのは、新しく編集長になった内田であった。
内田はそのフィルムを見て、「これはいい、これは受ける。銭くい怪獣カネゴン、凶暴なのにどこか愛嬌のあるガラモンなど、新しい怪獣のキャラクターは魅力的だ」と感動して早速「少年マガジン」で扱うことを考えた。 それまで「マガジン」の表紙と言えば、笑顔の少年とか人気のスポーツ選手ばっかりだったのに いきなり怪獣が三匹並んだ表紙案に対して「明日気味悪い」「店頭で誰も買わない」と厳しい意見が続出したが、そんなに頑張るなら新編集長に一度だけチャンスを与えようということになった。 こうして発売された怪獣が表紙の「少年マガジン」はたちまち売り切れてしまった。 以後増刷しても売り切れ続出。
気をよくした「マガジン」は以後特集で怪獣を扱うと、TBSも「ウルトラQ]の放映をはじめた。 「少年マガジン」とテレビという相乗効果で、怪獣物は大流行する。 以後、マンガとテレビ放映という組み合わせが売り上げを成功させる黄金の作戦となる。
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