「この世の花」は、雑誌「明星」に連載された北条誠の小説で また、1955年(昭和30年)公開の映画および島倉千代子が歌った同映画の主題歌である。
この世の花 島倉千代子 http://www.youtube.com/watch?v=ajlENYvyG1U 作詞:西條八十、作曲:万城目正
西條八十は中学三年の頃 近くに住んでいた軍医の娘かおると交際をしていた。
三年後 18歳になったかおるは西條八十に結婚を迫った。 さもなくば 彼女は海軍中将の従兄のところに嫁がなければならない。
しかし 中学生の西條八十は、海のものとも山のものともわからぬ身 二人は散歩の末、悲しく別れた。 淡い初恋とその破局
それから四十数年後に 童謡作家の島田忠夫西條八十の家を訪れた際に 「先生は、かおるという名の女性をご存じですか」と聞いたという。
そして 島田は自分の親戚に呉の鎮守府司令長官がいて その夫人の名は、かおるということであり 島田が先夜にその長官宅に泊まった時、夜中に老夫妻の夫婦喧嘩の声を聞いた ということを話した。
島田が妙に思ったのは 老夫人が二、三度大声で「だから私は八十さんのところへゆけばよかった」と 繰り返したことだった。 八十という名前はめったにないので、もしやと思ったが 西條八十から、かおるという女性を知っていると聞いて 納得したと語ったというのであった。
島田が帰ったあと 西條八十はしばらく書斎で独り 約四十余年相見ぬ彼女を想い、人間の恋情のふしぎさを思ったという。 十代の淡い、夢のような恋の相手の名を、白髪の老婆になっても口にする女心
島倉千代子の歌う「この世の花」は この西條八十の初恋体験を女性の側から描いたものであることは 一目瞭然であろう。
> 筒井清忠:西條八十、中央公論新社
詩人西條八十は自分の悲しい体験や 人々の日々の喜怒哀楽を観察していて それらを巧みに詩にしたのである。 人生の喜びや悲しみを体験しないと、すばらし詩は書けないのだろう。
|