島崎藤村の名作を一度読んだが 改めて読み直してみると 信州の地名がいっぱい出てくる。
何度も長野県を訪れ 場所がわかってくると この小説の中に出てくる地名が具体的に理解され あああそこだったんだと思う。
瀬川丑松は飯山の蓮花寺に下宿を変えた。 前いた下宿で、ごたごたがあったからである。 それは彼の身の上にも関することで なるべくそういう煩わしさから遠ざかりたかったからである。
この小説の書かれた頃には 飯山の町は 「奇異な北国風の屋造り、板葺の屋根、または冬期の雪除けとして使用する特別の軒庇から、ところどころに高く顕れた寺院と樹木の梢まで すべて旧めかしい町のありさま」 というようだったのだろう。 「冬期の雪除けとして使用する特別の軒庇」とは雁木のことであろう。 今も飯山には雁木が残っているのだろうか。
丑末は、小諸の向町で生まれた。一家は零落し、小県郡(ちいさがたごおり)に移り 丑松が禰津(ねづ)村の小学校に通うようになってからは 彼の出身地や出生の秘密は誰も気がつかなかった。 さらに父は姫子沢の谷間に落ち着き、叔父夫婦と一緒に住んだ。 師範学校を出て教員になった丑松に、父は決して身の上を打ち明けるなと言う。 後に父の葬儀のために丑松は姫子沢に行く。 ノノウは信州小県郡禰津村に住む巫女のことである。 巫女達は比較的自由に国境を行き来し、諸国の事情に詳しかったため 織田信長や真田信繁(幸村)など戦国武将の情報源として 重んじられたのである。 大河ドラマ「天地人」(直江兼続)では 若き与六(兼続)は戦火によって荒れ果てた善光寺で、 神秘的で美しいノノウの初音に一命を助けられる。
丑松が父の葬儀に向かうため、乗った汽車は乗換駅豊野で 直江津からの列車を待つ。その列車から降りた客が乗り込む。 これも実際に豊野を通った今となっては、場所がよくわかる。
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