文春新書439
著者山内昶(ひさし)は京大フランス文学科卒の大学教授だった。 著者は、ペットを食べることを推奨しているわけではなく、人類の歴史の上で ペットを食べる行為は過去にもあったし、現在も地球上のどこかで行われていることを報告して、そのあとに現代人は一般にはペットを食べない理由を述べている。
まず、犬を食べた歴史について述べている。 つづいて、猫を食べた歴史も述べている。
ここでは、世界中で犬猫が食べられたことを少し紹介する。 犬の場合 シベリアのエニセイ川流域で発掘された犬骨が約2万年前、スペインのアルペラ洞窟の半野生犬の絵が約1万4千年前と推定される。 これらの犬は食べられたという証拠はないが、1万2千年前と見られる旧石器時代末のデンマーク海岸部貝塚から発見された犬骨には食用に供された痕跡があり、ドイツのフランクフルト近郊の中石器時代の遺跡で見つかった犬の頭骨はうち砕かれ中の脳髄がとりだされた痕跡が残っていた。 日本では天武の殺生禁断令(675年)がある。「4月1日から9月30日まで、牛・馬・犬・猿・鶏の肉をたべてはならない、もし犯すことがあれば罪とする」とある。犬を食べる人がいなければこういう犬肉食禁令は出ない。当時犬食いの習慣があったことになる。 江戸時代の歌人戸田茂睡が秋田佐竹藩で犬料理を饗応されたことや、大田蜀山人が薩摩には子犬の臓物をぬいて米を詰めた「えのころ飯」のあることを報告している。 張競の「中華料理の文化史」には、「内蒙古、東北、華北、西北、華南などの地域で出土した豚、羊、犬、馬、山羊、鶏などの動物の中で、最も多いのは豚で73カ所から、続いて羊は59カ所から、三位の牛は57カ所から、犬は第四位で50カ所からそれぞれ出土している」と書いてある。 清朝の李鴻章がロンドンに交渉に行ったとき、英国外相から送られたシェパードを賞味したという話がある。 周恩来は犬好きで有名だったが、北朝鮮で「全狗席」(犬尽しフルコース)に金日成首席や田中角栄首相と一緒に舌鼓をうったという。 19世紀末、普仏戦争でプロイセン軍に包囲されたパリでは食べるものがなくなり、 動物園のゾウ、カンガルー、シマウマや犬まで食べられたことが当時の新聞に載っている。
猫の場合 スペインのデ・ノラの「料理書」(1529年)には、猫の丸焼きのレシピが載っていた。 イギリスのジェームズ・ハートは「新奇譚」(1633年)で、「ごくたまに故意か、あるいはそれと知らずに猫を食べてしまうこともあったが、何ら不快を感じなかった」と書いている。 中国では、SARSの感染源ではないかと疑われているジャコウネコ科のハクビシンを食べる。ハクビシンは、果子狸と呼ばれている。「貍」(狸の正字)、「貍の左部分+猫の右部分」(JISにこの文字がない)(猫の本字)などから推察されるように、狸肉と書きながら実は猫肉を食べていた可能性がある。狸も猫も人をよく化かすから(?) 日本も中国の影響を受けて、狸汁の何パーセントは猫汁かもしれない。 フロイスは「日欧文化比較」で「ヨーロッパ人は雄鶏や鶉、パイ、ブラモンジュ(ブランマンジュ:アーモンドをすりつぶしたミルクのゼリー寄せ)などを好む。日本人は野犬や鶴、犬猿、猫、生の海藻などを喜ぶ」
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