著者は浜松医大名誉教授 職業柄、卒業生の医師たちの結婚披露宴に出席することが多い。 たいていは仲人は、新郎の出身の講座の教授がする。 その講座の助教授は言う「教授の話は長いです」 披露宴が終わって、帰りのタクシーで、その教授と一緒に帰ると タクシーの中で、教授は「私の先生は有名な医師だった。、若い時には短い祝辞をうまく話していたが、年をとったら話が非常に長くなった」と言った。 そこで著者は気がついた。 どんな立派な人でも年をとったら話が長くなり、意外と本人はそのことに気がついていないのである。
なぜ人は年をとったら話が長くなるのか。 それは脳の老化によるのだという。脳が老化すると、本人の自覚がなくなる。
第一に、年をとると時間が早く流れるようになる。 子どもの時は、一日がどんなに長く、どんなにやることが多かったろう。 ところが年をとると、だんだん毎日が早くすぎるようになる。 正月になったと思えば一月も終わりに近づく。 そんなことを考えているうちにすぐ師走になるといった具合である。 これは脳の働きに関係がある。
第二に、年をとるとちょっとしたことに年齢を感じ、これが老化のはじまりではないかと心配するようになる。 若いときなら何か大事なことを忘れても「なんてことをしたんだ。馬鹿だな、俺は」などと思うにすぎなかっただろう。 しかし、年をとると、ちょっとしたもの忘れは老化と結びつける。これはぼけの始まりではないかと、自分の考えや体力などに自信を失うことが多くなってくる。 すると他人のちょっとした行為、言葉に敏感になり、自分が無視されたり、嫌われたりしているのではないかと思うようになる。 こうして「俺も、若い者が気がつかない人生のコツを知っているのだ。これを伝えてやろう。きっと彼らに役立つ話なので、驚くぞ」などと思うようになる。 つまり、自分が体験したことや考えていることをすべて伝えようとするのだ。
第三は、自分が話していることをあまり覚えていないという記憶の問題である。 前頭葉の働きが年とともに衰えるために、話している途中で、「あれ、なにを話していたのかな」などと思い、少し考えないと、話していた内容やその筋道がわからなくなるのである。 有名な某作家は某大学の記念講演会で、同じ話を何度もくりかえして、さきほど言ったことが本人には自覚がなかったようだと聴衆に知られてしまった。そういうことがあったということを家族から聞きました。
このように脳の学者は、「年寄りの話はなぜ長いのか」というのは、脳が原因なのだと説明しています。
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