人は旅に出ると、平常の生活では気のつかないことに気がつくものである。 未知の世界を体験することで、実は他の世界を発見するよりも、自分自身のことを発見するものなのだ。(外国に行ってはじめて、日本や自分自身のことを発見する)
旅の感動、あるいは他の人の旅の意味を知るために、私はいろいろな旅行記などを読むが この本は そういう旅行記を人に読んでもらうには、どう書いたらよいか、旅をする前にしたほうがよいこと、旅を終えてからどう整理して旅行記を書いたらよいか、それらのポイントを整理した本である。
一般のガイドブックには個性はあまりないが、心に残る旅行記には必ず個性が反映されている。 旅の目的とか、規模とか、旅行者の個性などは、それぞれ異なるものであるから、自分の条件にあった旅行記や、自分の好みの傾向の旅行記を選ぶものである。 そして、自分の好みの旅行記ではないが、そういうものを読むときに、世の中には自分とは違う価値観の人もいるということを知るということで、何か今後の人生に役立つこともある。
さて 例によってメモ的にまとめてみよう。 旅立つ前に ・スケジュールはラフなものに ・訪ねる先の重点だけは決めておこう ・ガイドブックはたんなる参考 あまりきっちり予定を決めても、そのようにいかないことが多くかえってストレスになるし 現地に行って、行く前に気のつかなかった新しい見所を得て柔軟に対応するということもある。 旅先での心がまえ ・観察こそが原点だ ・メモをとる習慣をつける ・現地の空気に溶け込もう ・体当たりの精神が大切 自分の目で見ることが大切。同じものを見ても、見る人によって観察するところが違う。それもおもしろい。 メモはとったほうがいい。出来事が多いから、すぐ忘れてしまう。小さいノートを持参したり、デジタルカメラを活用しよう。 現地の人と仲良くなると買い物が楽しくなったり、ガイドブックにはない情報が得られる。もっとも人を見る目がないと騙されることがあるが。 書き出そう ・材料をしはぼりこむ ・書き出しは現地から ・構成はきちんとさせる 書くにあたっては何でも羅列するのではなくテーマをしぼったほうがよい。 この著者は書いていないが、旅行の日程とか、それぞれの日に見て回った大事なところなどを整理した表をつけると読者に親切である。 小説の技法をとりいれる ・自然描写で臨場感を ・人物描写と会話法 ・文飾法を活かそう ・文章のリズムと文末 他の有名な旅行記や気に入った小説の表現法などを、普段からメモしておくとよい。 仕上げは念入りに ・思想と人生観を盛り込む ・自分の感性を重んじる ・しめくくりはさりげなく
他の人の書いた旅行記を読んで、よい影響を受けるのもよい。 つまり、感心した表現とか、手本にしたい表現法を学ぶのである。 しかし、書き手の個性というものがあるから、有名な作品でも、自分の個性にあわないものを取り入れる必要はない。ときには反面教師として利用すればよいこともある。
さて、おしまいに苦言を一言。 この本は 旅行記の書き方のハウツーと 心に残る旅行記の名文を紹介するだけでやめておけばよかった。 よりによって 下川裕治「香田証生さんはなぜ殺されたのか」をとりあげ 「香田君に対して、無知とかバカという文字が洪水のように流れ、それに反論しようものなら、総攻撃を受けそうな勢いだった。僕にはそんな世界にただ鼻白むしかなかった」 と下川裕治を弁護し共感するのは、同じ安旅行を繰り返す旅行作家仲間の身びいきなのだろうか。
香田君は 世界でも有数な安全なニュージーランドに行き、そこであきたらず、今度はイスラエルに入ろうとしたが断られ、それではと旅行仲間やホテルの従業員の反対を押し切って危険なイラクに向かう。
「どこでもよかった、などというと、また非難を浴びるかもしれない。そんな安易なことで、幸田君はイラクに入国したというのか....と。しかし旅人というのはそういうものだという思いがどこかにある」 たしかに旅をする人間は、何かの目的のために旅をするのではなく、旅をすること自体が目的の旅というのもあるだろう。 しかし、外国に行くとき、日本の代表としての気持ちを心の隅にもって行くべきだろう。 (自分は自分、自分の思いつきで何気ない行為をしても、知らない外国の人から見れば、日本人はそういうことをするんだととられかねない。一人の外国での行為は、他の日本人への影響を与えるものであるということを忘れてはならない) 自分の希望で山に登って遭難して、救助を頼んだときの費用は、誰が払うのか考えないで山に登り遭難して救助要請を出すのなら、それは無責任なことだ。 (捜索の費用は結局税金なのだ。遭難する本人と家族が全額費用を負担することを考えるべきだろう) はじめから危険なことがわかっていて、あてもなく、目的もなく、イラクに入っていくのは無責任だろう。 それをただ賞賛するのは、何か大事なことが欠けているのではないか。 (目的もなく、ただ行ってみたいと思ったからイラクに行ったのだろうと、本人の気持ちを一方的に推定して本を書いた下川裕治、その本を送られた幸田君の両親はどういう気持ちだっただろうか) 物書きとしての最初の一歩が足りないのではないかと思うのでした。
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