大学の図書館にあった本であるが、難解な本であった。 訳者のあとがきを読んでみると この本は専門雑誌「ニュー・サイエンティスト」に掲載された論文を編集したもので 内容は七部に分けられていて、各部はそれぞれ 創造論、生命の起源、断続平衡論、分岐法、社会生物学、獲得形質の遺伝、ダーウィン論 を扱っている。
「ニュー・サイエンティスト」はイギリスの週刊科学雑誌であるが 「ネイチャー」や「サイエンス」よりもはるかに啓蒙色が強く、一般読者にもわかりやすいものになっている。 そういう説明であるが、やはりある程度の専門知識がないと読みにくいと思う。
私の理解したことはごくわずかである。 そのなかの少しを紹介する。 進化論を批判する立場からすれば、いつまでも進化しないで昔からのままの生物もいるではないかという指摘があるのだろうである。 たとえばゴキブリは古生代に昆虫が出現してからほとんど変わっていない。 それをいうなら生きた化石としてのシーラカンスやカブトガニやオウムガイなども、その例であろう。 花粉をつかわないで雄の精子と雌の卵子で生殖するイチョウや生きている化石メタセコイアという植物もある。 いっぽう アメリカ大陸で発見されたウマの進化した種類の数々、あるいは世界に見つかる象の初期の種類から進化していった現代までの種類までなど ある種の生き物には進化のスピードが早い場合もあるし、もう進化しないというものもあるようである。 その現象を学者がいろいろな説を述べて説明しようとしている。 決定打というものはなく、だから、こういう議論が続いて、新しい論文が発表される余地があるのだが。
この本にはしきりに、創造論が取り上げられているが イギリスやアメリカにおいては今もなお、聖書に書いてあるように 神が生物をつくったのだということを信念をもっと信じている人が少なくないらしい。 明治のときにアメリカから日本に来たモースは、大森貝塚を発見したが 当時のアメリカ人としては珍しい進化論者で決して創造論者ではなかった。 彼はそういう意味でアメリカでは迫害まがいのことを受けたようであるが 日本に来て東大で進化論を教えて、誰も反対しないで受け入れたのを見て驚いたらしい。 日本にはキリスト教も聖書もなく、仏教の輪廻思想から、人間を含めて生き物は変わるという考え方を一つの説として知っていたからと説明する人もいる。
もちろん科学者の立場からして、創造論は間違いである。聖書に書いてあることがすべて正しいわけではない。 聖書のめざすものは自然科学ではなく、人間としての生き方に指針を与えるものであろう。
獲得形質が遺伝するかどうか、このテーマは昔から研究者が関心をもってきたらしい。 ダーウィンの進化論では、何かの原因で遺伝子が変化して、自然淘汰の中で、生きるに都合のよいものが生き残ってきたという説明だが 鳥インフルエンザウィルスが豚にうつり、豚のインフルエンザウィルスがヒトにうつるという現象がある。(ホンコン風邪とかスペイン風邪というのがその例である) この例では、インフルエンザウィルスは短期間に進化しているわけだが、偶然というにはあまりに毎年起こるので、そこにウィルスの意志のようなものがあるのではないかと私は思うのだが.....
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