奥本大三郎:書斎のナチュラリスト
岩波新書532
水のように無味無臭に近い、何の内容もない文章が書ければ、多くの人の迷惑にはならないだろう。 しかし、文章を書くと知らず知らずに得意になったり、自分に都合のいいものを書く傾向がある。 そういう文書とは夏炉冬扇、時節に合わず役に立たないもののたとえ、今なら冬の扇風機、夏のストーブであろう。
・東京の水よりミネラルウォーターの方が美味い。 ・イタリアの高速道路を走りながらあたりの景色を永琉眺めていくと、イタリアは鎖国ができると思う。自国内で旨い食料が自給できる。イタリアは国の経済が破綻して、政治がまともに行われていないと言われながら食べ物は旨い。日本が出生率の減少が問題になっているが、幕末の人口が三千万人だったのだから、出生率の低下は理想人口をもたらすものかもしれない。 ・相続税が高いものだから、結局先祖伝来の土地を売らなくてはならなくなる。買った土地ブローカーは、その土地をこまかく分割して売買し利益を上げていく。日本は社会主義の理想を実現した国である。思想の根本にあるのは、土地は国家のものであるということであろうか。かくして東京には広い屋敷は減り、個人の庭園もつぶされ、生き物はすみかを失っていく。東京の住宅地に健康な自然を求めることは無理としても、幸い我々には皇居がある。あの中には武蔵野のおもかげがあると考えると、たとえ見ることが許されなくても、考えるだけでホクホクする。英国の王室は税金を払うというけれど、日本の皇室だけは相続税を課さないでほしいと思う。
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