金田一春彦:童謡・唱歌の世界
おもしろいところだけ紹介します。
著者が 大阪朝日放送で、童謡「七つの子」の「七つ」というのは 「七羽」という意味ではなく「七歳の」という意味だ、 その証拠は、室町時代から江戸時代を通じてはやって歌謡に「七つの子が」云々 というのがあって、子どもといったら「七つの」というのが枕詞のように使われたから 野口雨情はその慣用句を使ったのだ、というようなことを話していたら 聴取者の一人から電話がかかってきた。 わらべうたに お月さんいくつ 十三七つ とある、あの「十三七つ」とはどういう意味だというのであった。 そこで文献を調べて、大阪・和歌山方面では、これを お月さんいくつ 十三一つ と歌ったという。おそらくこれが古い形であろう。 十三七つというのは「七つの子」などという「七つ」を「一つ」の代わりにくっつけたものでしょうと説明して お聞きの皆さん方のうちに、そう歌われる方はありませんかともちかけたら すぐ電話が三件もかかってきたという。
たしかに昔は「十三一つ」と言っていた、と言われ さらにそれはお月見のときに歌う歌で、その夜お月さんにサトイモを十四個そなえたものです、と教えてくださったという。 「十三一つ」とは十四日目の月のこと 十五夜お月さんの前の、十四夜お月さんではまだ年が若いということになる。 それが「十三七つ」となっては意味がわからなくなる。
ここで私が考えたのは 十五夜お月さんの前夜の十三一つのお月さんという本来の意味は忘れ去られ お嫁に行くお月さんなら、現代の感覚では二十歳くらいだろうということで、十三七つとなったのではないだろうか。
もう一つ面白い話を紹介します。 山田耕筰は北原白秋の詩をよく作曲した。 名曲「からたちの花」のように、山田耕筰と北原白秋の共作は多い。二人は気があっていた。
「からたちの花」が全国に流行していた頃、二人はコンビを組んで日本全国を講演しまわった。 どごも大もてで大変楽しい旅行だった。 ところが米原あたりであったろうか、ある田舎駅で乗り換えのため時間が二、三時間あいてしまった。 ホームで座っていもしようがないと途中下車して町へ出て行ってみたが、小さな町で見るよなところもない。 ところが一軒だけ田舎町には不相応なカフェなるものがあった。お酒の好きな二人はとりあえずそこに入った。 中はあんがい広く、女給が四、五人もいる。中にはちょっときれいなものもいる。時間の関係か相客はいない。 ここは一番もててやろうと、お酒を注文しながら「おれたちは、北原白秋と山田耕筰だ」と言い放った。 女給一同はあっとかしこまって奥へ引っ込んだと思ったら、今度出てきた時は、一同化粧も厚く、態度も馬鹿丁寧になった。 それはいいが、てんで寄りつかず、お酒を運んできてもすぐ奥へ引っ込んでしまい、ちっともおもしろくない。 二人はそれを見て何もそんなに改まらなくてもいいのにと思い、しかし素朴な彼女らの態度を可愛いものと思い、適当に飲んで帰ろうとした。 そのとき勘定書きを見ると馬鹿高いのである。 二人はびっくりしてよく事情を聞いてみたら、女級たちは彼ら二人を、北原ハクシャクと山田コウシャクの御両人と誤解したことがわかった。 と山田が雑誌に楽しそうに書いていたそうです。
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