著者は中学三年生 インターネットで追跡する「毒入りカレー事件」のレポートは 「文藝春秋」(1998年11月号)に掲載され 弟60回文藝春秋読者賞を史上最年少で受賞した。
あの和歌カレー事件のとき 私は学会発表のため上京していた。 恵比寿ガーデンプレイスでのオフラインの後 タクシーで東京のホテルに向かったのだが そのときは食中毒というニュースだった。 翌日は愛知県の半田市の大学で学会の初日の夜の打合会において 用意された弁当を前に、これは(古くないから)食中毒にならないはず といってみんなを笑せていた世話人 そのときは、全国的に食中毒という判断だったようだ。
そのあと数日後、次の学会の会場の福岡で発表して 帰路についたあたりで事態は変わって もう砒素の中毒だということがわかって 犯人捜しになっていった。
この本では ○事件当日に保健所が 患者たちの嘔吐と下痢を根拠に 黄色ぶどう球菌が熱に強く、激しい症状もあるという断片的な知識を もとに予断にもとづき集団食中毒であると判断した。 ○もし保健所が「食中毒」ではなく、薬物中毒を疑っていたら 砒素を特定できていなくても、催吐、下剤、胃洗浄や適応の広い解毒剤などを 緊急に処置することができたはずである。 ○現実には毒物中毒への救急処置がとられなかっただけでなく 気休めにすぎない点滴や抗生物質が処方され 催吐や下剤ではなく、逆に鎮吐剤などが処方された。 これは、医療による「さらなる加害」とは言えないだろうか。 ○最初から毒物中毒に対する処置がなされていれば、最初の死亡者でも 九時間以後であったことを考えると、四人の生命が救われた可能性はきわめて高い。 ○また捜査本部は、患者たちの症状に、青酸中毒に典型的な呼吸機能への打撃が 見られず、青酸中毒では考えられない激しい下痢などの症状が共通に見られて いたにもかかわらず、軽率にも谷中さんの死因を「青酸中毒」と断定 他の三人を「青酸中毒死の疑い」とした。 ○捜査本部の断定の根拠は、青酸予備反応検査で胃中の未消化物が陽性を 示したことによるらしい。 症状が青酸化合物に否定的であるにもかかわらず、信頼性が薄いとされる 便宜的方法で出た結果を、死因の断定の根拠にしたとするなら 明らかに本末転倒であろう。
まあ 今だからミスが多かったと批判できるが 当事者からすれば突然経験したこともない大量患者を前に 慌てたのであろう。 人間は経験をつんで賢くなっていく。
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