著者の考えでは 世界の言語分布は自然環境にかかわりがあるということである。 それは、自然環境が変化することによって民族の移動がひきおこされ、その結果として、現在の言語の分布があるということである。
著者によれば 多神教から唯一神教への移行は、5000年ほど前からはじまる乾燥化によったというのである。 神々のうち、雨が降らなくなって雨の神がいなくなり、川は干上がって川の神がいなくなり、土地は物を生み出さなくなって母なる土地の女神もいなくなって。 そして定着農耕民のエジプトにおいては、ナイル川の水位をつかさどる太陽神が、遊牧民イスラエルにおいては、乾いた地に雨をもたらし草を生じさせる嵐の神が唯一なる神となって残ったと考えたのである。
この本には アメリカとユダヤ人ということに関しての言語上のエピソードが紹介されている。 明治時代に、森有礼が日本語をやめて英語にしなければだめだといったのと同じように、アメリカでもかつて、とても英語なんかでは学術論文がかけないから、アメリカ合衆国の国語はヘブライ語にしようという、まじめな議論があったと橋本萬太郎が語ったという。 (世界のなかの日本文字、弘文堂) といっても、移住したユダヤ人がヘブライ語を話していたわけではなく、アシュケナージ系のユダヤ人はドイツ語方言からできたイディッシュ語を話しており、ほかはそれぞれ生活していた国の言葉を話していた。ただし、イディッシュ語を話すユダヤ人たちはヘブライ文字の使用をやめておらず、ヘブライ語はイディッシュ語のなかにおびただしく入っているという。 この話はすべてのアメリカ人にあてはまるのではなく、アメリカ合衆国のユダヤ人の中での話であろう。
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