日本を揺るがせた事件の傍観者の一人、と云ったら格好良いけれど。 ただの野次馬だったわたしにとって、二つの事は忘れられない。
その一つは、こんなきっかけだった。会社に入って最初の3か月を 実習期間として各事業場を回っていた頃に、同期のI君と会ったのだった。 お互いテニスの経験があって、彼の配属先の工場のコートでプレーするうち 近く迫った夏休みを涼しい軽井沢にでも行こうか、ということになったのだ。
プリンスホテルの貸コートを借りられて、上機嫌でプレーしてると、 何となく周囲の雰囲気がおかしい感じがする。金網越しの見物人たちが 一か所に移動しているようだった。そこで我々も行って見た。 なんと若き日の皇太子が御学友たちとテニスの真っ最中ではないか。 ハンティング帽をかぶって、ごついフォアハンドのドライブ球を打っていた。
やがて関東平野に戻ったら、マスコミが騒ぎ始めた。いわゆる「軽井沢の恋」報道だ。 しまった、テニスは隠れ蓑だったか。コートの片隅に居たに違いない美智子さまを見逃してしまった。 悔やんだが、後の祭り! 元皇太子の現天皇さまも今年80歳を迎えられ、わたしもとうに80を越えた。 川崎駅の裏手にあった工場もテニスコートも無くなり、跡地は巨大なショッピングタウンだ。 I君もすでに鬼籍に入っていて、過ぎ去った年月の記憶だけが重く、ということか。
|