やっていいこと わるいこと-5
スリ
ポストを開けた。手紙や広告とはちがうものが入っていた。なんでこんなものが、と おそるおそる取り出してみたら、赤いすてきな財布だった。気味が悪かった。 どうしようと思いながら、開けて中を見た。カードが入っていたが、お金はまったく 入っていない。
そこで、気がついた。盗んだ人がお金を抜いて財布の捨て場にポストを選んだのだと。 カードに氏名と電話番号が書かれていたので、電話をした。若い女性だった。 「家のポストに入っていたのです。お金は入ってなかったけど、お財布がすてきだっ たので、お電話しました」 「友だちに誘われて初めて遊びに行ったのですが、どこで財布がなくなったのかわか らないのです」と答えが返ってきた。
わが家のそばにゲームセンターがある。そこへ遊びに来ていて財布をなくしたらしい。 翌日、彼女はやってきた。 「好きで、気に入っている財布なので、取りにきました」と言いながら。 「お金は入っていなかったのよ。すてきなものなので、お電話したの」 「ありがとうございました」 と帰って行った。いくら入っていたか聞かなかった。彼女も言わない。それでいいと 思った。まさか、私が中味を抜いたとは思わないだろう。そんなことするなら電話は しない。
そんな事件があって、思い出したことがある。 弟が就職して社宅に入った。私もいっしょに転居、居候の身となった。 20歳少し前のこと、12月の給料をもらいバックに入れて帰る途中、クリスマスの プレゼントを買おうと思った。 デパートの中を歩き回って、気がついたらバックの口が開いていた。中を見たら給料 袋がなくなっていた。もう少し歳がいっていたら警察に行ったのだろうが、そのとき はそのまま家に戻った。もちろん、弟へのクリスマスプレゼントどころではなかった。 同じ社宅に住む、弟の同僚といっても、おじさんだが、その人に話した。翌日社長に 伝わった。 給料を盗まれたのでは、生活できないだろうと、貸してくれた。正月を迎えることも あり助かった。 この社長のことは今でも思い出す。「お姉さん、お姉さん」と言い、かわいがってく れた。社宅の子どもたちにお年玉を配って歩く人だったが、私にもくれるのだ。テレ ビも買ってもらった。テレビがあれば遊びに行かずに済むだろうと言いながら。 でも、ちょっと気がかりなことがあった。私がスリに遭わないのに、遭ったと嘘を言っ ているのではないかと、自分で使おうとしたのではないかと。社宅の奥さん方は、と やかく言うのが好きだから、そんな憶測も飛んだようだ。 私としては悪いことしてないので、平気の平左であった。
みなさんはこのような体験をお持ちでしょうか?
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