アンデルセンの「親指姫」
ある晩のこと、親指姫が可愛い寝床で寝ていると 体が大きくて、みにくくて、じめじめしたヒキガエルが現れ 「こりゃ、せがれの嫁さんに、もってこいだ」と言って 親指姫の寝ているクルミの殻をかかえて、窓ガラスの割れ目から 庭へ飛び降りました。
そこには、広い大きな川が流れていて 川の岸はじくじくして、どろ沼みたいになっていました。 そこに、このヒキガエルは、息子と住んでいるのでした。
親指姫はこの後、ヒキガエルたちに川面のスイレンの葉の上に運ばれ 軟禁状態に陥ります。 泳げない親指姫に対して「泳ぎの得意なヒキガエル」が印象づけられているが カエルに詳しい人が読むと違和感を感じるという。
そもそもヨーロッパでは 陸棲・短足・いぼいぼで乾いた肌のカエル(英語toad フランス語crapaud ドイツ語Kroeten) 水棲・長足・滑らかで湿った肌のカエル(英語frog フランス語grenouille ドイツ語Frosch) と陸のカエルと池のカエルを区別している。
親指姫に出てくるヒキガエルはそもそも陸棲のカエルなのに 行動としては水棲のカエルになっている。 デンマーク語でも、陸棲カエルはTudser 水棲カエルはFroer(oは特殊文字)と分けているが 親指姫のカエルは Skruptudse(ヨーロッパヒキガエル)の単語が使われている。
平田剛士:日本いきもの小百科 平凡社 この本の著者は、アンデルセンはカエルのことはあまり知らなかったのだろうと推定します。
悪役カエルのキャラクターを設定するのに、体が大きく、ゴツゴツして毒々しい色合いのヒキガエルろをもちだしている。 外見はそれでいいが、行動は陸棲のヒキガエルではなく、水棲のカエルにしてしまった。 こんなカエルは世界中どこにもいない。
アンデルセンがいたら、これは動物の教科書ではなく、童話なのだから 実際にいないカエルでもいいんですと言うかもしれない。
創作の苦労や苦しみを理解しないで勝手なことをいう批評家には 推理小説家や漫画家が時折怒って、ウルサイ、だまれ!というようなことを書いているのをみかけることがある。
この本には グリム童話の「かえるの王さま」の童話を紹介して 泉の中に誤って金の手まりを落としてしまって困っている王女の前にカエルが現れ 「友だちにしてくれたら拾ってやる」と言い、王女が承諾すると カエルは潜って水中から手まりを探し出す。 という場面を紹介しながら、カエルは Frosch(水棲ガエル)となって違和感のないことを述べている。
作家も、時代考証みたいにその方面の専門家に一度書いたものを読んでもらって、チェックしてもらうのがいいのだろうか。
|