名編集者の名案と思うが、あの開高健と小田実をくっつけてしまった本がある。
「世界カタコト辞典」である。二人とも有名な世界放浪の達人である。
辞典なのでアイウエオ順である。ためしに『ス』のところをめくると、スパゲリがある。
これは小田の執筆で、アメリカへ行き、ここでスパゲッティを注文した。
これがマッタク通じない、そこで発音を七変化させてみたがやっぱりダメ。そこへ17歳くらいの坊やが出てきて、店主の耳元でひそひそ。やっと店主にも分かったらしく大声で、おー、スパゲリのことね、といったとか。
もうひとつは、開高がきゅうにギリシャへいくことになり、大学でギリシャ語を専攻した小田が先生役を買って出た。まず教えたのが「ワレ汝ヲ愛セリ」「ワレ汝トトモニ寝ルコト欲セリ」「女ノ子」「キレイ、アアキレイ」開高はそっちの方も好きは好きだが、食う方もまけずに好きだ。そこで、ほな、腹がへったらどないするんや、と問うと小田は、そら簡単や。タベルナいうたらええんや、とすべてが漫才調だ。
アテネの宿りはどうする。まず、「宿ハイズクナリヤ」が必要で、宿に付いたら、なんぼや、先方が高いこと云ったら「ワレ大イニ貧窮セリ」それでもだめなら「高スギルヨ、オカネナイネ」と痒いところに手の届くような教授ぶりだ。
ちなみに、二人とも大阪人である。しかし年中フザケテばかりいるわけでもなく、時に教養が炸裂する。
実用と教養を兼ねる本書、今様の言葉で云えば、『シェフの一押し』である。
もっとも、小田先生のお陰で、いくらギリシャ語がうまくなっても、いまかの地を訪問しようと思うひとは、あまり多くないかもしれない。(-_-;)
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