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[No.92] 『狂騒する宇宙』 投稿者:   投稿日:2011/11/13(Sun) 08:04
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旧聞になるが「ノーベル物理学賞は三人の天文学者が受賞。授賞理由は宇宙の加速的膨張を天文観測により実証した研究」との報道を聞いて、数年前に読んだキルシュナー著『狂騒する宇宙』を思いだした。同書は前出の受賞研究に焦点があてられている一般向け科学書・・・受賞者を知っての再読もおもしろかろうと図書館へ行った。

そのハイライトの箇所を要約すると、
―1990年代、二つの研究チームが1a型超新星を探索・観測し、明るさから距離を、またスペクトルから後退速度(膨張速度)を測定して、現在宇宙は加速的に膨張しているとの同じ結論に至り、ほぼ同時期に発表した。それまで宇宙の膨張は減速していると考えられていた。
この研究などにより、現在の宇宙の年齢は約140億年、宇宙の構成はダークエネルギー60%、ダークマター30%、バリオン(物質)10%と考えられている。しかし宇宙の大半を占めるダークエネルギーとダークマターは正体不明であり、研究は始まったばかりなのである―
著者自身が超新星爆発を専門とする現役の天文学者である。また一方の研究チームのメンバーであり、受賞者三人のうち二人の指導教授でもあった。科学者が一人称で描く科学者の知的好奇心、競争心、研究の失敗・成功といったことが直接伝わってきて、共有感が生まれる。サイエンス・ライターには書けない類の科学書であろう。

原著の副題 ”Exploding Stars, Dark Energy, and the Accelerating Cosmos”が翻訳書では「ダークマター、ダークエネルギー、エネルギッシュな天文学者」となっている。これは誤訳ではなく、出版社の意向による変更と思うが、原著のほうがより内容に合っている。また同著には索引がないのだが、これは出版社の手抜きであろう。

ネットで原著を検索してみるとエピローグを付した新版がでているようだ。エピローグの内容を想像させるような著者寄稿の記事がニューヨークタイムズに載っている。
http://www.nytimes.com/2011/10/07/opinion/the-universe-dark-energy-and-us.html?_r=1

原著
”The Extravagant Universe:Exploding Stars, Dark Energy, and the Accelerating Cosmos.” by Robert P. Kirshner Princeton University Press 2002
翻訳書
『狂騒する宇宙−ダークマター、ダークエネルギー、エネルギッシュな天文学者』R・キルシュナー著 井川俊彦訳 共立出版 2004