[No.430]
人間、とりあえず主義
投稿者:男爵
投稿日:2011/12/04(Sun) 18:04
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なだいなだ:人間、とりあえず主義
なだいなだは、北杜夫の同僚であり作家仲間でもある。
「ちくま」の巻頭の連載エッセイをまとめたもの。
連載を始めるとき、タイトルを聞かれて、「とりあえず、なにか仮の題でも」と編集者から言われたときひらめいた。
「なに、とりあえず? それだ! それをもらおう」
こうして「人間、とりあえず主義」というタイトルが生まれた。
これは内容をよく表しているタイトルになった。
著者は生まれてから、とりあえず生きてきた。いつでもとりあえずで、本格的に生きてきたことがないのが、最大の欠点になろうか。人生仮採用のままで、本採用にならずに退職するようなものだと著者は書いている。
実際に精神科医としても、とりあえず主義でやってきた。
「まだここが悪い、まだ病気が完全に治っていない、すっかり治ってから人生を再開したい」という神経症の患者に
「これまで七年もかかってまだ治らない病気が、すっかり治るのはいつか、きみに分かるかい。だれにも分からないよ。だが、明日や明後日でないことははっきりしているな。それまで生きるのを中止しているか、それとも病気を背負って、七分の力しか出せなくとも、とりあえず人生を再開するか、きみはどっちをとる?」と質問し、とりあえず生きていくことを勧めてきた。
これはまさしくとりあえず主義であろう。
ティル・オイレンシュピーゲルが、城門の前に立っていて、通りかかった旅人に「次の町まで何時間かかる」と聞かれて、彼はただ「歩け」と答えるだけだった。
とりあえず歩いてもらわなければ、「そのあんなの足でなら、隣の町に着くころには夜になるな」と答えるわけにはいかない、というのがティルの言い分である。