画像サイズ: 600×399 (33kB) | (7)ハッピーリタイアメント
シモン夫婦と愛犬イファーを車に乗せて、アイセル湖(Ijsselmeer)の締切大堤防、マースランド可動防波堤等の大土木工事を見に行った。東京のブックセンターでオランダの詳細な20万分の1の地図…畳2枚分の大きさ…を買って持っていったのだが何処かに置き忘れて手元にないので今はどうして行ったか思い出せないない。
1953年の洪水で一晩に何万ヘクタールという干拓地が水没し何千という死者がでた大惨事があって国を挙げて水に対する戦いを進めてきたものだという。山がない国である。堤防を築くには莫大な岩や砂利が必要だ。砂しかないのでそれらを輸入しなくてはコンクリートさえ造れない。コンクリにうるさい小生には工事の難しさが解る。
世界遺産になっているショックランド(Schokland)、バタビアワーフ(Bataia-werf)国立博物館、それにどこか静かな港街で散歩したのがどの辺りだったろうか、シモンに悪いが覚えていない。
午後、ウーデンベルグ(Woudenberg)のキャンプ場に来ているアリーとエリー夫妻(Arie&Elly)を訪ねた。北海に面した海岸の避暑地で多くのキャンピングカーが集まっていた。アリーは建設会社のサラリーマン社長で62歳。ドイツ製のキャンピングカーを買って来ていた。あと6週間でリタイアしスイスでスキーをするんだと喜々としていた。定年後どうしようと青ざめる日本人と大違いだ。
シモンを通じて小生のことが知らされているのだろう。初対面にかかわら知己のようだ。エリーがベルギーの上等なチョコレートと誕生カレンダーをプレゼントしてくれた。誕生カレンダーは親戚友人の誕生日を書き込んで贈り物をする慣わしなんだろう。
返礼に持参した藍染めの日本手ぬぐいを差し上げた。アリーが包みを開け「60になってお迎えが来たらまだ早いと追い返せ…」というのを見てなにが書いてあると訊かれた。When you got 60 years old, までは良かったが‘お迎えが来たら’で困った。主語はどうする? 難しい詩なんで後日メールしよう、と逃げた。
外にテーブルを囲みビールを飲んでいたときシモンのカミさん、マチェが袋から蒲鉾とキッコーマンの醤油を取り出した。蒲鉾は茶碗蒸しを作って食べさせてやろうとイトーヨーカドーで100円で買ってきてたもの。冷蔵庫に入れていたのを見て昨晩これはどうして食べるのかと訊いたので酒によくマッチすると教えたのだ。 さあ困った。キャンピングカーのキッチンに行って包丁で切ろうとしたらアリーがカメラを構えて写した。恥ずかしいことこの上ない。
「ウーム テーストグーッ!」と言ってくれたものの顔つきを見れば分かる。もう少し上等な蒲鉾を買って来るんだった。おれのメンツを立てて全部食べてくれたが陰口が聞こえるようだ。
当初、親しい仲間を6人ほど集めて家でパーティーを…就いてはなにか日本料理を作ってくれ…材料は手当て可、台所は手伝う、ということだったのでその日が来るのをびくびくしていたがこれで放免になってホッとした。
北海の海岸は真っ白な砂浜だった。人々は全裸に近い姿で初夏の陽に晒していた。この時期太陽を浴びてビタミンAを体内に取り込む必要があるのだろう。
日の入りが大分遅くなった。どこまでも平地の涯に教会の塔がちいさなシルエットで見える。今日もいい日だった。 |