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[No.7305] ある言語学者の視線 投稿者:唐辛子紋次郎  投稿日:2015/10/01(Thu) 10:57
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ある言語学者の視線
画像サイズ: 445×680 (60kB)
黒田龍之助さんの「寄り道ふらふら外国語」を読んだ。この人の本は今までに何冊か読んだことがあるが、この人は言語学者だ。

 で、チョット引っかかるものがあった。そうだ、むかし千野栄一(チノ・エイイチ)と云う言語学者がいて、その方もなかなかの多作家で、何冊もの啓蒙書を書かれた。チャペックやクンデラを訳されているので、ご存じの方も多いと思うが。

  なぜ、ここで千野栄一さんが出て来るかといえば、この方も、専門が、スラブ語学だったからである。

 どういうわけか、スラブ語専攻の方は、たくさん本を書かれるが、たとえば、ロマンス語系の方は、学習書は書かれるが、随筆の様なものは、あまり書かれないのではないか。

 その黒田先生が、スラブ語以外のことが、たくさん出て来る、こうした本を書かれた。諸君、わたしは、ロシア語の先生ではなく、言語学者なんだよ、というわけである。これを読めば誰だって、先生をロシア語の先生、などとは呼ばなくなるだろう。

 そこには、実にたくさんの外国語が登場する。フランス語☆に始まり、イタリア語へ行き、ドイツ語に進み、スペイン語へ飛んだかと思えば、途中の『コラム』には、ポルトガル語やスウェーデン語、オランダ語なぞが顔を出したりもする。


 もちろん、本題の進行中にも、チェコ語やベラルーシュ語、スロヴェニア語などが、それとなく、ちらほら垣間見えたりもする。

 各章のタイトルも面白い。第1章がふらふらフランス語。第2章がいろいろイタリア語、第3章が、どきどきドイツ語、第4章がすいすいスペイン語といった調子である。

 随所に取り入れた写真も、なかなか、そんじょそこらでは、手に入らないような貴重なものを集めている。たとえば、37ページの、むかしむかしのラジオ・フランス語講座と説明のある、語学テキストの写真だが、この『ラヂオ・テキスト基礎佛蘭西語』は、昭和8年発行とある。

 それから、著者もさることながら、さすが語学出版老舗の白水社が手掛けるだけあって、編集にもそつがない。肩がこらないので、その辺にごろんと寝ころんでも、気楽に読める仕掛けになっている。どこから読んでも面白いが、

 なかでも、紅露外語のはなしは、もと東京人のあっしには、面白さとともに、懐かしさのようなものも、こみあげて来る。

 若い頃、御茶ノ水の、アテネフランセで、短期間学んだことがあり、その道すがら、この紅露外語という学校の看板を見て、紅露とは何だ。これはきっと、ロシア語の学校だろうと、黒田先生とマッタク同じようなことを考えながら、その前を通り過ぎた記憶がある。実は紅露と云うのは苗字で、この人の経営するドイツ語学校だったのである。それから、


 フランスはリヨンの、ベルクール広場に銅像のある、サンテグジュペリの著書「星の王子様」は、もともとはフランス語だが、147ページには、そのタイ語版、カンボジア語版の表紙が出て来る。しかし、

 この本の中で、一番ビックリさせられるのは、おそらく、これではないか。つまり、スペイン語は、スペイン以外では、ブラジルを除く南米のすべての国で話されるという日本人の『常識』についてだ。

 先生によると、南米のガイアナ共和国の主要言語は英語、スリナム共和国はオランダ語。フランス領ギアナでは、カリブ語とスラナン語だそうで。(@_@;)だいたい、世の中に、スラナン語なんというのがあるというのは、あっし奴、今の今まで全くスラナンだった。(-_-;)

 さらに、ガイアナ、スリナムでは、ヒンディ―語までが、話されている、と。こうなると、あくまでもインドへ到着したと信じていた、コロンブスも、あながち、間違っていたとは云えないのかも知れない。(^O^)


 この説を唱えたのが、先生の勤務する大学の、外国語学部の、事もあろうに、スペイン語専攻の学生であったというから、いかにこうした『俗説』が、あっしを含め、日本国全体に蔓延しているかに、改めて驚かされる。★(おわり)

 ☆ 著者の語学行脚は、あっしらと同じように英語から始まるが、そのあと、はロシア語にも手を出し、さらに、フランス語にまで手を伸ばす。

 ★黒田先生はさすが、言語学者だけあって、南米の線引きの紋題であるとか、南米ばかりでなく、アフリカの赤道ギニアでも、スペイン語が話される事実にも目を向けるように注意を喚起することも忘れない。もちろん、スペイン国内の、非スペイン語についても。