中井久夫氏の「清陰星雨」という本に『旗のこと』という1章があり、文章は短いが、読んでみると氏の旗狂いがよく分かってなかなかに面白い。
なにしろ昭和ヒトケタの同氏は、昭和十四年当時の世界の国旗をすべて諳んじていたという。あっしの小学校の頃には国語の教科書は、たしか「サイタ サイタ サクラガ サイタ」だったはずだが、「ハタ」というのも、出てきたような気がすると思ったら、その前の時代に「ハタ タコ コマ」というのが、かなり長いこと使われたようだ。
「ハタ」が一番前に出て来ることから云っても、おそらく日露戦争の勝利で、国威が頂点に達していたことの反映ではないか。
「ハタ」はもちろん、国旗であろう。
氏が幼少時から船舶や軍艦のオタクだったというのには、育った地が、神戸大阪にちかい、宝塚や伊丹だったせいもあるであろう。
満艦飾などについても、一般に運動会の時に使う万国旗と勘違いされていることに、注意を喚起している。満艦飾は国旗ではなく信号旗であるという。信号旗には文字旗26種(アルファベット)、数字旗などあるが、Aから始まって、有名なZ旗は、その最後にある。
* 本来のZ旗には、「皇国ノ興廃うんぬん」の意味はない。あっし自身に関していえば、子どもの頃、手旗信号と云うのを覚えさせられた記憶がある。
また、オーストリアの首都、ウィーンの市旗についての記述があるが、ここは、あっしらも二回以上行っていて、同じように目撃したが、重要な文化財には、すべて、赤白の旗というか、幟が翻っている。
あれを市旗と云われるので、ネットで見たが、どうもウィーンの市旗は見当たらないので、あれは首都州ウィーンの州旗☆であると思う。
きょう、旗で思いついたことがある。子供の頃、家ではよく食パンを食べた。パンには京橋の明治屋で買った、「アオハタ」ママレードが使われた。瓶のラベルに青い三角の旗、ペナントというのだろうか、の絵がついていた。それでこの、アオハタだが、
この会社はいまでも、盛業中であり、このマークのついた瓶はよくスーパーやコンビニでも見かける。その息の長いのには驚く。このマークの由来を、同社のHPでみると、創立者がイギリスに遊学中に、オックスオードか、ケンブリッジ大学のボートに付いていた三角旗をたいへん気にいり、会社のマークに採用したのだそうだ。それから、
逆日の丸(赤地に白丸)も、日本では、中世には船印として使われたなどの記事も面白い。そのほか、あっしも、中国語でアメリカを美国というのは知ってはいたが、星条旗のことを花旗というのは、今まで知らなかった。試みに、グーグル翻訳で、星条旗とやると星条旗しか出てこない。で、
Wikiの「アメリカ合衆国の国旗」というのの中国語版をみたら、星条旗即、「花旗」とはなっていないが、中文俗称「花旗」の文字があった。
氏は例の数字旗についても詳しく、日本国旗は赤丸が一つなので、1、フランス国旗は、3色旗だから3と、そのうんちくを傾ける。
ま、旗だけで、これくらい書ける人はそう、いないのではないか。
中井氏は本来は、精神病理学などの研究者だが、素人で旗にこれだけ詳しい人は、チョット珍しいのではないかというのが、あっしの偽らぬ読後感である。
【おわり】
☆ オーストリアは、9つの州に分かたれる。
★ ちなみに、文字旗のAは、徐速して通過せよ、の、Zは、本来は、本船に、タグボートを求む、などの意味である。
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