映画を見てから原作を読んだ。
石川県生まれの本浦千代吉は業な病気にかかり 4歳の秀夫を連れて巡礼の旅に出る。 それから3年後に やっと島根県の亀嵩(かめだけ)に着いたとき 親切な三木謙一巡査に助けられる。
本浦千代吉は岡山県のライ療養所に入園でき 秀夫は三木巡査に引き取られるが、脱走してしまう。
今西刑事は足で調べ続ける。 あるときは秋田県に飛ぶ。 島根県にも行く。 そして 北陸線大聖寺で降り小さな電車に乗り換える。 終点の山中温泉からさらにタクシーで山奥に入る今西栄太郎刑事(巡査部長)。 秀夫の母親の姉から当時の話を聞くのである。あれから秀夫はここに一度も姿を見せなかった。
7歳のときに別れた少年と30歳の新進気鋭の音楽家 記憶のよい今西刑事は同一人物ではないかと推定する。 そして悲劇となる。
この小説は、自分を完全に共同体社会から切り離そうとする人間が 彼のそんな気持ちも知らずに追いかけてきた共同体社会の代表者を惨殺するところからはじまる。 最初に殺された人物というのが、古き良き共同社会のシンボルであるような かつての村の巡査であったことは象徴的である。
主人公は幼いときからハンセン病の乞食の子として諸国を放浪して すさまじい非人間的な扱いを受け続けてきた。 世間はすべて敵だと考えたとしても当然である。 彼は三木巡査に救われたが、そこで成人する限り、ハンセン病の父の子 という差別が一生ついてまわることは確実である。 彼がそこから逃走したのは、彼の立場としてはそれなりに正当であったといえる。
善意すぎた三木巡査は彼に不注意に近づきすぎたから不幸になった。 (佐藤忠男の解説)
さて この小説は内容がてんこもり。 それをそのまま映画化するのは大変である。 脚本を書いたのは橋本忍、あの山田洋二も手伝ったという。
橋本忍は 業病の父と子が巡礼になって裏日本をさまよう姿を 日本の四季の中におさめるようクライマックスにもっていく それを丹波哲郎扮する刑事に語らせたのが すばらしいシナリオになっている。
だから、小説から削除された話がいっぱいある。 それでも、あの映画は長い時間の映画であった。
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