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[No.15521] 桃太郎の運命 投稿者:男爵  投稿日:2010/07/21(Wed) 19:05
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鳥越信:桃太郎の運命  NHKブックス 1983

日本の昔話の桃太郎は、時代とともに扱われ方が変わってきた。
目次はつぎのようになっている。
 ◎皇国の子・桃太郎
 ◎童心の子・桃太郎
 ◎階級の子・桃太郎
 ◎侵略の子・桃太郎
 ◎民衆の子・桃太郎

少し各部分について解説しよう。
 ◎皇国の子・桃太郎
   明治維新後のはからずも硯友社メンバーたちの作品
   尾崎紅葉「鬼桃太郎」 パロディ版 鬼が島の城門衛司の(左遷された)鬼のリベンジ実現のため、桃から生まれた苦桃太郎が毒竜、大ヒヒ、オオカミを家来にするが日本につく前に自滅する。
   巌谷小波「桃太郎」 伝統の日本昔話に小波の描写を加え名場面をつくっている。「天つ神の御使、大日本の桃太郎将軍」と名乗りをさせる。 この話ゆえ、著者は「皇国の子」と位置づける。
   石橋思案「是非御覧日本一」 鬼退治をした桃太郎が、竜宮城へいき乙姫様と結ばれる。乙姫様の出産の時に、○○薬舗の安全分娩用具を使い無事玉を産み落とす。というわけで、製薬会社の宣伝本だった。 ここでも乙姫様は「大日本帝国がご発足になりました時から、あなた様をお待ち申しておりました」と言う。
   
 ◎童心の子・桃太郎
   楠山正雄「桃太郎」 どこかひろい外国へ出かけて、腕いっぱい、力だめしをしてみたくて、鬼が島へと出かけていく。そこには、皇国の子としてのおもかげはない、と著者は言う。
   相馬泰三「桃太郎の妹」 パロディ版、二個の桃が流れてきた、大きな桃から桃太郎が生まれた、小さい桃はさらに下流に流れて着いたところで生まれたのがお桃だった。 大正ロマンの大作と著者はほめている。
   
 ◎階級の子・桃太郎
  世はプロレタリア文学が盛んになり、プロレタリア児童文学も勃興した。
   江口渙「ある日の鬼ケ島」 卑劣でうそつきで臆病でずるい桃太郎は、大人の鬼たちが祭りで留守にして老人と子供だけ残った鬼ケ島に来て宝物を奪っていく。「まじめに働いたやつが少しも得をしないで、ずるく立ち回ったやつばかりが一人で甘い汁を吸うのが人間社会なら、仲良く助け合う鬼ケ島のほうがずっとましだ」
   本庄陸男「鬼征伐の桃太郎」 働いても働いても貧乏な小作たちは、小作米を取りにくる地主を鬼だと思う。小作人の代表として鬼地主退治のため出陣した桃太郎は、広大な屋敷乗り込み、地主と金持ちを残らず退治する。 価値観の転換 逆転の論理。
   (こういう思想に有島武郎、宮沢賢治、太宰治らが苦しめられた?)

 ◎侵略の子・桃太郎
   佐藤紅緑「桃太郎遠征記」  少女倶楽部連載 桃太郎と三勇士は、まず怠惰国を皮切りに、モダン国、食欲国、邪心国など悪魔の支配する国を征服し、日本の威光を全世界に示す。
   マンガ映画「桃太郎の海鷲」 日本初の国産長編アニメ。真珠湾攻撃をモデルとして、桃太郎を隊長とする航空隊が鬼ヶ島へ「鬼退治(空襲)」を敢行し、多大な戦果をあげる。あの手塚治虫も感激してみた作品。
http://kenpo-9.net/document/041124_kouenroku.html

http://blog.goo.ne.jp/mimifuku_act08/e/d84aed41aed16a88113bd46646f46659
   
 ◎民衆の子・桃太郎
   奈街三郎「ただの桃太郎」 敗戦で引き上げて日本に帰ってきた兵士や引揚者たちのように、桃太郎と犬、サル、キジも戦後のやけ野原の日本に帰って来る。刀も扇子も捨ててきたが「日本一」の旗印だけは持ち帰った。帰ってみるとそれもばかげたものだと思い身にしみた桃太郎は、「日本一」の旗印も捨て、ただの桃太郎として再出発しようとする。
   松谷みよ子「ももたろう」 まさしく民衆の子として語りつがれてきた伝承の桃太郎ばなしを、可能なかぎり単純素朴な形で再構成しているので、イメージは生き生きと躍動していると、この本の著者は解説している。
   寺田ヒロオ「スポーツマン金太郎」 週刊少年サンデー連載 金太郎と桃太郎は、親友でライバル、共にプロ野球のスーパースターとなってゆく。主役は金太郎なので、桃太郎はワキ役に回っている。

この本ができるいきさつはこの著者が1971年5月5日に
NHK教育テレビで「桃太郎の変遷」という番組を構成・司会したのがきっかけである。
1981年に出た滑川道夫の「桃太郎像の変容」は決定版ともいえる桃太郎研究書
であったが、NHKブックスのすすめもあり、著者はこの本を出した。
 この本には、桃太郎侍はない。

(文字入力などのミスを見つけたので、修正してから再度アップします)