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[No.16222] 北杜夫:マンボウ雑学記 投稿者:男爵  投稿日:2010/12/06(Mon) 11:49
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岩波新書167   1981年出版

「はしがき」に、この本は岩波新書にはふさわしくない内容で、むしろ中学生や高校生向きのエッセイだと断っている。
「日本について」は、あえて今の中学校、高校の日本歴史の教科書にはぶかれている古い日本の伝説や作りごとの多い国史についていくらか述べている。軍国主義教育を受けた著者は、戦前の軍国主義の教科書の内容が、敗戦後の教科書では誇大に抹殺されたり片隅におしやられてしまっていることを指摘して、何事も極端なことはよろしくないと述べる。また、今の若者がマンガばかり読んでいるのを見て、おそらく「古事記」や「日本書紀」などに目を通すことはずっと少なくなっているだろうから、日本の伝承は多少あやしげなことが入っていてもやはり知っておくべきことだと考えて書いたと断っている。
自国の神話や言い伝えをないがしろにしてはいけないと考える著者は、やはり海外での生活を送ったものとしての当然のことだろう。海外に出てはじめて人間は自分が何者かを自覚し、自分の国のことを知ろうとするのである。
(韓国の歴史教科書にも、古の国のはじまりの伝説を載せてある)
「お化けについて」は著者が子どものときから関心のあったものらしく、お化けや妖怪はユーモアに通じるからとりあげたとも書いている。
「看護婦について」と「躁鬱について」は、この本に著者が残したかったフロクのようなものである。
ゲーテの「傑作ばかり書く人間が、この世のどこにいようか」という言葉を引用して、名作の多い「岩波新書」のなかに、駄本も少しあってもいいのではないかと述べる。悪貨が入ることによって良貨の価値がわかるということである。が著者は、わざと視点を変えて、意外な内容の本を書きながら、読者に考えるヒントを与えようとしているのかもしれない。


 欽明天皇の時代、美濃国大野郡の人が嫁を探していると、野原で一人の美女と出会った。そして、意気投合して夫婦となって子どももできたが、この妻に飼犬が吼えつき噛みつこうとした。
 妻は犬に追われて、たちまち狐の姿となった。夫は驚いたが
 「汝と我は子まで成せし仲である。それ故我は汝を忘れぬ。いつも来て寝よ」と叫んだ。
 よって、キツネ(来つ寝)という話ができたという話が「日本霊異記」に出てくる。この話はのちに江戸時代の浄瑠璃「蘆屋道満大内鑑 あしやどうまんおおうちかがみ」という作品のもとになる。

海ぼうず
 作者は「どくとるマンボウ航海記」で、ドイツで買ったガス・ピストルは海ぼうずにとられたと書いたが、三年後に警察が来て、まだガス・ピストルを隠し持っているのではないかと聞かれ、とうとう始末書を書いて没収されたという。
 あきらめきれない著者は、ガス・ピストルは催涙ガスなので銃器とは思っていなかったこと等を、当時香港領事館で世話になった元領事が帰国してから警視総監ににったので、その土田氏にこのことを話したところ、後日このガス・ピストルを警察が改造したら、ぶ厚い板を貫通することができたから、やはり銃器と認めて没収せざるを得ないと返事をもらったという。

作者は、井上円了の「妖怪学講義」を紹介して、若い読者にこの本に肩がこったら、水木しげるの「ゲゲケの鬼太郎」を見ることを勧めている。

看護婦
 日本の看護婦(いまは看護師)は何でもするゼネラリストに対して、欧米の看護婦はスペシャリストである。
 アメリカの看護婦は給料も高く、婦長になると威張っていて、新米の医師にとってはとてもコワイ存在である。
 著者は内心、日本の看護婦の患者に対する親切や優しさを高く評価して、彼女たちの待遇がもっと上がることを期待しているように思われる。

躁鬱について
 著者の躁病は自覚があるから堂々としている、それに対して病識のない分裂病では自分や他人に危害を加えたりすることもあるから、はるかにこわいので、それからみれば自分は安全な存在だと述べている。
 ノイローゼ患者は自覚が多すぎる。たいして悪くもないのに医者にいって
「あなたは大丈夫です。ふつうに働いていなさい」と診断されると
「あの医者はヤブだ。おれがこんなに悩んでいるのをちっともわかってくれない」と憤慨し、また別の医者へ行く。
すると
「あなたはかなり重い。この薬をお飲みなさい」などと不必要に多量の薬を与えるヤブ医者のことを
「あの先生は名医だ。ほかの医者がわかってくれぬおれの心の深部をちゃんと見抜いてくれた」と、せっせとその医者のところへ通う。

著者は、自分が躁鬱病であることを公表したのは、世間に精神病に与えるマイナスイメージを少なくしたという功績があるとへんな自慢をする。
なにしろ病院で、医者から躁鬱病だといわれた患者が
「すると、北杜夫さんと同じ病気ですね」と言って、ホッとする人が増えているという。


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