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[No.109] 泉鏡花の「高野聖」 投稿者:   投稿日:2010/05/18(Tue) 21:01
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 まだお盆にはチト早いが、この部屋も今月一杯でおわりだ。そこで感動を誘うような教訓的なお話だけでなく、コワ〜イお話もときには大事なのではないかと思って、上掲の本を挙げた。

 なんといってもこの方の大家は泉鏡花だ、とあっしは勝手に決めている。恐怖小説の書き手はほかにもいるが、何と云っても芥川や直木三十五のように、鏡花は文学賞に名を冠しているのだから読む価値は大いにあると思う。じつはこの作家は亡妻のお気に入りで、あっしはひとの読むものは読まぬ主義に徹していた天邪鬼なので一度も読まず仕舞いだった。

 それが何のきっかけか、もう覚えていないが、何となく読んでみて驚いた。100年以上も前の「高野聖」の描写はただただスゴイ、と思った。至極当たり前の話だが、あっしにはこれは到底書けないと思った。それよりコレを読んでから暫く、あっしは暗い道がひとりで歩けなくなった。(-_-;)

 怖いもの知らずということばがある。これはそのプラスの面が強調されることが多いが、マイナス面もないわけではない。最近のいわゆる『英雄的行為』なんぞも、そのうちに入るような気がする。

 いわゆる『英雄的行為』に走らないためにも、若者には、へらへら笑う漫才だけでなく、こういう読書も必要だと思えてくる。

 山中の描写はとくに圧巻で、ヘビやヒルにさいなまれ、聖が難行苦行する有様が手に取るようにわかる。この難行のあとに、この世のものとも思われぬ天女のような美女が現れるが、これなどもさすが読者を喜ばせる手練手管を心得た、鏡花ならではの配慮といえるのではないだろうか。