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[No.152] 災害に強い情報社会 投稿者:男爵  投稿日:2013/05/24(Fri) 19:11
[関連記事

本條晴一郎/遊橋裕泰 
  災害に強い情報社会 東日本大震災とモバイル・コミュニケーション
          NTT出版
http://www.nttpub.co.jp/search/books/detail/100002240

この本については、すでに
メロウ談話室で概略内容を紹介しました。

したがって、ここでは同じことは書かないで
震災時にあった具体的な事例の紹介をすることにします。

まず
大震災が起こって、これはある程度予想されたことだが
モバイル・コミュニケーションは十分に機能しなかった。

地震や津波によって通信設備や伝送路が破壊されたり、停電に続く非常用バッテリーの枯渇により基地局設備が稼働できなくなったりと原因は様々だった。
 実際私のパソコンのインターネット利用は震災後数日は回復しなかった。プロバイダーのサービスが正常に戻ったのは数日後であった。

また
構造的に、公衆サービスを提供する商用通信ネットワークでは、急増した通信量をさばききれないという限界がある。
今回の大震災ではNTTドコモでは通常時の約50〜60倍まで通信量がふくれあがったのである。

さて
首都圏では、三陸の被災地ほどでないにしても
地震の影響はあった。多数のサラリーマンなどが交通機関のストップにより
帰宅できない状況に追い込まれた。

そのとき彼らはどのように対応したか。

震災当日、関東地方の外出者は、公共交通の運行情報や道路交通規制・迂回路情報のタイムリーな提供が求められていた。
だが実際問題として、鉄道会社やその他企業団体からの情報の提供は滞った。
現場での対応に追われていたから情報提供は二の次だったのだろうが、駅に殺到する人々を減らすには情報提供が重要だったはずである。
そして、これらの情報がやりとりされていたのは、利用者同士が情報提供し合うソーシャルメディ上であった。

まず、ソーシャルメデイアの利用状況について確認しておきたい。
平常時に帰宅判断者が利用していたソーシャルメディアは、1位が「YouTube」で21.3%
2位が「mixi」の13.9%であった。
他方、残留判断者では、「YouTube」が24.0%で帰宅判断者と同じく1位だが、2位は「Twitter」の22.1%であった。
興味深いことには、震災当日、帰宅判断者・残留判断者ともに、ほとんどすべてのソーシャルメディアが利用率を落としている中、唯一「Twitter」の利用率がほとんど落ちていない。
帰宅判断者の「Twitter」利用は0.8ポイント差の11.1%、残留判断者では2.9ポイント差の19.2%であった。
これは、「Twitter」のシンプルな機能が災害時のコミュニケーションに適していたからであると考えられる。

今回の震災では、「Twitter」などのソーシャルメデスアが情報収集だけではなく情報の伝搬に重要な役割を果たしたと言われている。
実際、東京消防庁が津波後の火災で孤立した宮城県気仙沼市の福祉施設へ救助ヘリコプターを飛ばしたのは、救助要請のツィートがきっかけであった。
だがこのような事例の一方で、災害に直面した不安からうわさが広がりやすくなる。
流言やデマなどの情報が飛び交い、すでに対応済みのSOS情報がいつまでも転送され続けたという厳しい指摘もある。

これらは今後の利用者教育やマナー指導に期待したと思う。


[No.153] Re: 災害に強い情報社会 投稿者:男爵  投稿日:2013/05/25(Sat) 09:26
[関連記事

> 本條晴一郎/遊橋裕泰 
>   災害に強い情報社会 東日本大震災とモバイル・コミュニケーション
>           NTT出版
> http://www.nttpub.co.jp/search/books/detail/100002240

> 大震災が起こって、これはある程度予想されたことだが
> モバイル・コミュニケーションは十分に機能しなかった。
>
> 地震や津波によって通信設備や伝送路が破壊されたり、停電に続く非常用バッテリーの枯渇により基地局設備が稼働できなくなったりと原因は様々だった。

情報通信の分野からみて、東日本大震災ははじめて起こった大災害ではない。
過去にも様々な災害が起こり、そのたびに通信インフラへ様々な災害対策が施されてきた。

古くは1968年の十勝沖地震において、北海道と本州を結ぶ海底ケーブルが切断されて北海道が一時通信孤立の状態に陥った。
これを契機として1970年代、中継伝送路が2ルート化されることになる。

また自然災害ではないが、1984年の世田谷ケーブル火災では、とうどう*内の作業中に火災が発生し、世田谷電話局に収容していた固定電話約8万9千回線、警察の110番や消防の119番、三菱銀行のデータセンターなどが不通となった。
都市で発生した通信障害としては最大規模で、完全に復旧するまでに9日間を要した。
以降、全面的に難燃ケーブルを採用していくことになる。

  「とうどう」とは、通信ケーブルやガス管や送電線などのための
  専用管路トンネルであり  
  保守作業に人が入ることのできる管径のもの。

その後も1993年の北海道南西沖地震では可搬型衛星局を、1995年の阪神・淡路大震災では災害用伝言ダイヤルを開発していく。
ケータイの災害用伝言板が開発されたのも、2003年の三陸南地震がきっかけであった。

東日本大震災からは何を教訓として、どのような対策がおこなわれていったのだろうか。

震災発生から半年間に携帯電話事業者がおこなってきた災害対策について
津波被災地域の人々に評価を聞いたら次のようになった。
(各事業者の対策は少しずつ異なるが、ここではNTTドコモについて説明する)

評価された対策の上位5つは、1位が「通信エリアの回復」で74.2%、2位が被災者に対する「基本料金無料化」で51.9%、3位が避難所などへの「全事業者対応充電器の設備」で48.9%、4位が「災害用伝言板の提供」で44.6%、被災地の自治体や支援団体ーの「衛星・携帯電話の無料貸出」で44.2%であった。
金銭的支援もさることながら、上位を占めるものは通信確保のための取り組みであり、情報通信サービスではやはり「つながる」ことが何より大切だと認識されていたのである。

ここで数値的には評価の低かった24.9%「復旧エリアマップの公開」について少し補足しておく。
従来、通信ネットワークに障害が発生した場合には公式Webサイトおよびiモードのメニューページにおいて文字情報で告知をおこなっていた。
だが、復旧・復興で現地入りする支援者には土地勘がないため、文字情報が役に立たない。
また、同時に無料貸出携帯電話や充電コーナーの設置場所、さらにはサービスエリアだけでなく数段階に分けられた復旧予定も案内する必要があったため、地図の上にこれらのすべてを記載して情報提供した。
支援機関・団体からは評価されたものの、公開時期が3月20日であったことから被災地で告知する有効な手段がなかった。
したがって現地ではほとんど知られていなかったため、希求されていた情報であったにもかかわらず評価が低いのは、認知度の問題と考えられる。

 役立ち情報を載せても、肝心のケータイやインターネットが使えない環境ではどうにもならない。ソフトより最小限のハードがまず必要ということ。

東日本大震災の経験に基づいて、今後次のような対策が取られている(NTTドコモの例)。

1.大ゾーン基地局の設置
  アンテナ基地局のカバー範囲をゾーンと呼ぶ。平常時、一つの基地局は半径数百メートルから数キロメートルのゾーンを形成し、それらが隣接しあって、サービスエリアが形成されている。
  大規模災害などで停電が長引いた場合に、これら基地局の予備電源が枯渇することとなる。
  そこで、発動発電機などを備え、強固に守られた大ゾーン基地局が、周辺の基地局に代わって単独でサービスエリアを形成する。
  大ゾーンの半径は7キロメートルほどの広さだが、複数の基地局でエリア形成している平常時と比べて処理能力は落ちることになる。
  これを都市部を中心に全国104カ所に設置することで、人口の約35%をカバーすることができる。
  NTTドコモでは、2012年3月末までに全国で大ゾーン基地局の設置を完了した。

2.基地局の無停電化・バッテリーの24時間化
  東日本大震災で停滞したアンテナ基地局の多くは、長時間の停電で予備電源が枯渇したことが原因であった。
  NTTドコモは、全国約700カ所の基地局に発動発電機を設置して無停電化し、約1000カ所の基地局でバッテリーを24時間分に増強した。

3.衛星・マイクロエントランスの充実
  ケータイの通信インフラは、アンテナ基地局から先、交換機まで光ファイバーの伝送路でつながれている。 
  東日本大震災でも多くの伝送路が流出・損傷したが、これらを修復するのに役に立ったのが、車載型や可搬型の衛星・マイクロエントランスである。
  衛星・マイクロエントランスは、基地局から交換機までを臨時の衛星回線やマイロク波の無線回線でつなぎ直すための設備である。

4.災害用音声お届けサービスの提供
  災害時に通話サービスがつながりにくくなった場合、比較的輻輳に強いパケット通信方式で音声メッセージを伝える非常時専用のサービスが開発された。

5.Twitter および Google Person Finder との連携
  NTTドコモが運用しているiモードのトップメニューやスマートフォン向けのdメニューで、公共交通機関や報道機関の Twitter アカウントを一覧表示。
  災害時にその場でタイムリーな災害関連情報を簡易に収集できるようにした。
  また、災害前から携帯電話事業者各社は災害用伝言板に登録された安否情報を相互に参照できるようにしていたが、さらに Google Person Finder(Webサイト) からも検索できるようにデータ連係をおこなうことにした。