[No.7138]
Re: やっていいこと わるいこと-5
投稿者:あや
投稿日:2015/07/18(Sat) 08:53
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やっていいこと わるいこと-4
拾って
家に近づいたとき、ホームレスらしき男性が立ち止まり、菓子の袋のようなものを踏
んだ。後ろから見ていて、お腹がすいているのだろうかと思った。
歩きはじめたので、その袋へ近づいてみたが、靴先で確認しなくても空っぽとわかる
ものだった。私は哀しくなった。そのあと、その人の横を通り抜けたが、顔を向ける
ことができなかった。
何メートルか歩いたところにあるゲーム店の前で、女性が携帯電話で話していた。そ
の足元近くにどうしたわけか、フランスパンを小さくしたようなパンが入った袋が落
ちていた。もちろん封は切られていない。私は天の助けではないかと思った。
ふりむくことはできなかったが、
「パンが落ちているわ。早く来て拾って」
と心の中で叫んでいた。
家に着き六階まで上がり、下を見ると、男性は、そのパンの袋のそばまで行ったのに、
元へ戻った。私は、
「なんで、どうして、パンが落ちているのよ。気がつかなかったの」
と後ろ姿に憤っていた。ほんとに変だった。忘れ物を思い出したように、回れ右をし
たのに何か違和感を感じた。そんなことを思いながらなお見ていた。
しばらくしてその人は戻ってきた。
「やっぱり、気がついてたんだ。よかった」
と思った。それは携帯電話をかけていた女性が、立つ位置を変えたので気がついたの
だ。
私からは女性が見えなかったのだ。パンに気がついたが、女性がいたので拾えなかっ
たのだろう。まだ恥じらいが残っていたのかと思う。
女性が去ったあと、パン袋を拾って、落とした人がいないかを確認するように、一、
二歩ゲーム店の入り口へ近づいて行った。そして元へ戻り、道を歩きはじめた。
私が見下ろす位置で、どこにしまおうかというしぐさをしていた。結局は上着の中へ
入れた。ポケットに入る大きさではないのだ。
一部始終を見てしまったが、よかった。食事一回分助かるよね。どこで食べるの。少
し行ったところにある公園でかな、と自分のことのようにうれしくなってしまった。
涙がじわっとにじんできたのは、ソファに身を沈めてからだった。