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(谷沢)昭和初期の膨張意欲、これを逆に支えたものに「日本後進国劣等主義論」というのがある。これをいいはじめたのは北村透谷である。
彼は、あらゆる改革、革命は内発的であるべきだ、ところが、日本の明治維新という革命は外圧のもとにあった。したがって、外圧でできた改革、革命はすべてにせものである、というのであった。 要するに、マンチェスターから発生したイギリス資本主義だけが世界正統の資本主義、近代国家である。後でおくれていった国は全部劣等国であって、かつこれは劣等国という焼印を押されて、生涯いくら努力してもだめなんだという悲観論を、透谷が唱えるのである。それを、明治の終わりになって夏目漱石がそのまま採るのである。
(谷沢は、そんな議論からいったら、永遠に後進国は精神的独立を得ることができなくなる。日本近代文学の学界では、透谷と漱石を二百パーセント崇拝することが一番主流になっている。だから、それをいっぺん国際会議に行って発表したらどうか。それは、今日の発展途上国に対して死刑宣告をすることになるわけだ)
(谷沢)トインビーの筋書読むだけでもわかるように、あらゆる文明というものは、起こって滅び起こって滅びして、その間に必ず交流があるわけだから、まったく自主独立、百パーセント自発の改革なんてこの世にあり得ない。この世にあり得ないそういう模範像を、透谷は頭の中だけでつくり上げ、それに肉感を与えたのが漱石である。
漱石はロンドンでノイローゼになって、うらみ骨髄だから。その体験が一つの劣等感として大正期にずっと沈みこむわけである。他の知識人も沈みこんだ。
青年将校は、もちろん透谷も漱石も読んでいなかっただろう。けれども、日本の高度の知識人が全部そういう劣等感を論じることにマゾヒズム的な快感を覚えてくるわけである。それを見ていたら、こいつらに日本を任しておったらだめだという気持ちになるのは力学的に当然だと思う。
一方、青年将校がだんだん影響力を持ち始めたころに、マルクス主義がはやる。マルクス主義は革命理論だから国を破壊する理論である。元来が劣等感の上に、国を破壊する理論が乗っているわけだから、これは日本中にガン細胞が深く侵出したようなものだ。そのガン細胞の一番の根本は、東京の本郷にありというふうに考えがいくのは、ある程度、私はわかる気がする。
本郷発のがん細胞説ですね。 これに対して反論したい人もいるでしょう。
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