若ものに読んでほしい「この一冊」
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[No.90] 自分のなかに歴史をよむ 投稿者:男爵  投稿日:2010/05/07(Fri) 10:20
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阿部謹也は
ドイツ中世史の研究では第一人者だった。
一橋大学学長のあと 共立女子大学学長を務めた。

この本に出ている忘れられない文章をメモ的に書いておきます。
 ◎研究対象に惚れこんでいる自分を、どこかで冷静に見つめているもう一人の自分を考えてみる。
 ◎どんな問題をやるにせよ、それをやらなければ生きてゆけないというテーマを探すのですね。
 ◎ゲッチンゲン大学教授ハインペルの歴史意識
   幼いハインペルはリンダウを訪ねたとき、リンダウではミュンヘンと時間が違うということに気づいた。
   私たちはなんとなく、時間だけはすべての人に公平に流れてゆくと考えています。一応そのようにいってよいでしょうが、それは時間を数量的にとらえればそうなるということであって、時間を人間がどのように意識しているのか、という点からみると異なってくるのです。
 ◎モノを媒介とする関係と目に見えない絆で結ばれた関係
   私たちが誰かとなんらかの関係を結ぶとき、そこにはなんらかのモノが必ず介在していて、そのモノが意外に大きな役割をはたしていることに気づくでしょう。
   しかし、人間と人間の関係はそれだけでなりたっているわけではありません。愛や思想、掟、迷信、信仰、習慣、音楽などモノではありませんが、人間と人間の間の関係のなかでたいへん重要な役割をはたしています。私はこうした関係を、目に見えない絆で結ばれた人間と人間の関係と呼んでいるのです。
   モノを媒介とする関係と、目に見えない絆で結ばれた関係の二つが、人間と人間の関係の基礎にあると一応考えてよいでしょう。

私は知人からドイツ留学のときに「中世の窓から」を贈られて
これをドイツにいるとき熟読したものです。
ほかの旅行ガイドブックには書いていない、その町の詳しい歴史に関することが書かれていて貴重な本でした。

 貨幣経済がかなり普及した13、4世紀に作られたゴシック建築の柱や壁に、
 奇妙な姿の人間がお尻の穴から金貨を排泄している像が彫られているのがあります。
 たとえば、北ドイツのゴスラーの市場に面したギルドハウス(現在はホテル)の壁に
 このような像を見ることができます。これは貨幣を不潔なきたないものとみた、
 当時の知識人の感情を伝えたものといえるでしょう。

 何故貨幣は不潔と考えられたのでしょうか。11世紀以前のモノを媒介とする
 人と人との関係は、人間の共同生活の非常に古い層に根差すものですから、
 簡単にはなくなりません。贈与慣行は根強い倫理・掟として今日においてさえ
 部分的には残っています。クリスマスや復活祭でもないのに、やたらに
 物を受け取ることにやや抵抗があるヨーロッパの人でも、食事に招待すれば
 喜んで応じてくれるでしょう。そして必ず返礼として招待してくれるでしょう。
 それは対等の関係を保つための必須条件だからです。

 ところが、モノを与えた人(売り手)に対して、受け取った人(買手)が
 すぐその場で何ら自分の人格とは関係がない金属片(貨幣)を渡して、
 何の返礼もせず去ってしまったらどうでしょうか。11世紀以前の倫理の世界
 に生きていた人ならば、腹をたてるよりは相手を軽蔑したでしょう。
 モノの交換の背後には、本来人格と人格のふれあいがあったからです。

 ニュルンベルクのロレンツ教会に入ると、正面左手に高さ20メートルもある
 聖体安置塔があるのに気がつきます。

 かがんだ3人の男が塔の台を背中で支えているように見えます。
 前にはつちとたがねをもった中年の男、祭壇よりには、たがねを手にした男、
 反対側には手におのをもった老人が見えます。

 これこそニュルンベルクの石の芸術家アダム・クラフトの作品で、
 この3人がアダム・クラフトと徒弟、職人なのです。

 この作品は1493〜96年につくられ、クラフトは1455〜60年頃
 に生まれていますから、この頃のクラフトの年齢を推定できるのです。
 かつて美術史家ヴェルフリンはこの聖体安置塔を後期ゴシックの精華と
 たたえましたが、これこそニュルンベルクの石工の頂点に立つ作品ということが
 できるでしょう。

 聖体安置塔をはじめて見た人は、傍らによってしさいに眺めるまでは、
 それが石で作られていることが信じられないでしょう。

ニュルンベルクのロレンツ教会の聖体安置塔
私は見学した後にこの本を読見直して、改めてニュルンベルクに行って石で作られたものであると確認しました。
いわれてみないと、それは木製だと誰でも思うでしょう。


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