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[No.7042] Re: 思い出すままに 大森時代‐3 投稿者:あや  投稿日:2015/05/13(Wed) 17:49
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思い出すままに 大森時代‐3

夏休み
 
 夏休みには、家の前に茣蓙を敷いて勉強をした。同級生や、弟の同級生、他に近所の
下級生がおおぜい集まった。夏休み帳などを教えてあげたのである。机のない青天井の
寺子屋であった。
 ときにはみんなを引き連れて、六郷土手や池上本門寺などへ写生に行った。長い道中
であったが、親たちはなにも言わないよき時代であった。今は、子ども同士で、遠出な
んて考えられないだろう。
 それと、近所のラーメン店へ家庭教師に行ったことが、夏休みの大きな思い出である。
家庭教師といっても、ラーメン屋のおじさんが、息子の家庭教師になんて、冗談に言っ
ただけのこと。
 家から出て、少し行ったところの角にあった店でいつも混んでいた。子どもは三人い
て、一番下の女子はまだ、就学していなかった。私が頼まれたのは、二人の男の子で、
小学生だった。
 これまた、夏休みの宿題をみてあげるもので、毎日午前中が、その時間に当てられ
た。店が始まる前の、両親が忙しく立ち働いている、店に続いた部屋でのことである。
 中学生の私が、どんなことを、どんなふうに教えたかは覚えていないが、親御さんに
は感謝された。いっしょに遊んであげただけに過ぎなかっただろうと思う。
眼鏡をかけたピエロみたいなおじさんは、研究熱心で、お客がおいしいと言った店には
出向いて、研究してくるのだった。
私が長ネギを刻んで炒めたものがのっていたラーメンがおいしかったと言ったら、さっ
そく出かけた。幾日か経って、試作品を食べさせてくれたが、おいしかった。


ラブレターの下書き
 
田中の浪ちゃんという下級生の家は大きな家で、裏には畑が広がっていた。
 浪ちゃんのお父さんは、ずいぶんとお年寄りに思えた。おじいさんという感じすら抱
いた。お母さんはたっぷりとした黒髪の、粋な感じの人で、その話しぶりなどからして
子ども心にも、芸者さんをやっていた人のように思えた。また、お父さんとはかなり
年は離れていたように思う。
 その浪ちゃんの家には、山本富士子が大きく写された、酒屋のポスターがあった。
 お父さんは、私がその写真によく似ていると、いつも言っていた。その似ている部分
を忘れてしまったが、たぶん口元が似ていると言われたような気がする。その写真に向
かい、眺めたが、似ていたとは思えない。日本髪の美人に似ているわけはない。
 また、かわいがってもらったが、その写真のせいもあったのかと、今では思う。その
ことを、お母さんには、悪いなと思った覚えがある。小学生高学年から、中学生にかけ
てのころで、おしゃまだった。
 浪ちゃんは私より二つ下の下級生。彼女は私の比ではなく、女というものを持って
いた。お母さんに似たのだろうなんて思ったりもしたのである。
 この浪ちゃんのラブレターの下書きをした。そのボーイフレンドの顔も名も知らな
い。ただただ下書きをしたのである。代筆ではなく、なぜ、下書きかというと、私の書
いた文章を彼女がきれいな字で写して、手渡すのだ。私の字ではラブレターにならない。
 思うとなんとも不思議な気がする。どんなラブレターを書いたのだろう。私がすっか
り、忘れているだけで、彼がどんな人かは聞いていたのかも知れない。それでなくて
は、書けないと思う。また、それほどうまい文章を書いたとも思えないが、浪ちゃんに
は感謝され、書き続けた。その恋の行方はわからない。


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