[No.204]
名物男
投稿者:
投稿日:2010/01/31(Sun) 10:57
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当町での花火大会も、数年の中断はあったものの、お陰でことし第50回目を迎えるという。会場には観覧席のほか、放送席も設けられ、つぎつぎ打ち上げられる花火の解説をしている。
最近はやらなくなったが、このとき必ず登場するのが、もと花火師だったという富田という名の老人。花火をひとつひとつ丁寧に解説していたが、かれの一番の特徴はいよいよ上がるという時「つぎは大輪の菊です、ドン」とかならず最後にドンがつく。ここで観衆の笑いがおこり、雰囲気が一段となごやかになる。つぎのが上がるときもきっと云うだろうなあと思っていると、これがかならず云う。しわがれ声でやるのでじつに効果的だ。
実際は花火がドオ〜ンと大音響を出すので、わざわざ人間がその前にやる必要もないのだが、もと花火師ともなると、そうは行かないのだろう。なかには稀にだが、上まで上がらずに下に落ちてしまうものもある。ドン。これには、ちゃんと上がってくれよという、年老いたもと花火師の願いというか、気持ちがこもっているのだろう。
毎年このもと花火師の人気が広がって、東京あたりからも見物人が大勢集まってくるようになった。それが最近はマッタク放送席に姿を見せない。当時でもかなりの年と思われるので、もうこの世にはいないのかも知れない。花火の時季になると、いつでもこの男のことを思い出す。