詠 アラン・ポーといえば、ボクは若い頃、「黒猫」や「アッシャー家の崩壊」なんかを、読んだ気がするな。筋書きはあんまり覚えていないが…。
美 あと、「黄金虫」、「盗まれた手紙」なんていうのもあったね。
詠 うん、でも、きょうは別のを紹介したい、と思うんだ。
美 どんなのかな。あの、推理作家の江戸川乱歩ってペンネームも、あの人の名から取ったんだってね。やっぱ、あのアメリカの作家を尊敬していたんだろうなあ。
詠 紹介するまえに。こないだ、チョッとかれの伝記を読んでみたんだが、これがなかなか面白いんだよ、これが。たしかにかれは大作家、大詩人なんだろうけど、調べてみると、人様のやつを頂戴しちゃったようなのもいくつかあるらしいんだな。それから『ポー呑んだ呉れ説』というのもケッコウ有名らしいんだが、あれには紋題も多いらしいね。だれかさんの捏造だとか…。
なんでも、評論家の佐伯彰一によれば、かれに「ジューリアス・ロドマンの日記」という小説があるんだけれど、あれはどうやらアーヴィングのマネくさいし、「ゴードン・ピムの物語」になると、モレルと云う作家の作品の一部の丸写しに近い部分もあるらしい。 またねえ、写真なんかで顔みてると、ポーって相当オッカナそうな感じだが、書くほうの話になると、オッカナイお話だけでなく、ケッコウおもろい作品もあるらしいぜ。「タール博士とフェザー教授のなんたらかんたら」という作品がそれらしいけれど。 ああいうコワイのを書かないでこういう方面に進んでたら、そうさなあ、一流のパロディストになっていたかもね。(^_-)-☆また、編集者としての腕前もなかなかのものだったようだ。いちど彼自身の雑誌を作らせてみたかったな、ボクは。
美 でも、コワイのが、かれの真骨頂だと思うな、おれは。
詠 そうだろ、そうだろ、そうこなくっちゃ。きょうの紹介も実はそれなんだよ。「メエルシュトレエムに呑まれて」ってんだけどね。
美 なあんだ、なんかおれ、そっちの計略にひっかったような気分だな。
詠 ふっふっふ、まあ、そんなところだ。これはひとりの漁師の話なんだが、そいつが自分の遭遇した、世にも恐ろしい難破体験を筆者に語るという形になってるんだが、その語り口の上手さはサスガだね。読んでるうちに次第次第に敵陣に引っ張り込まれ行くような感じで気がついてみると、もう後戻りが出来ないように雁字搦めになっている自分を発見して、慌てふためくって云う…。
美 おいおい、脅かすなよ、おれ心臓わるいんだから。
詠 メエルシュトレエムってのは、じつは現実にノールウェーにある巨大な渦巻きなんだけれど、かれとその兄貴の乗った漁船がその大渦巻に飲み込まれてね、やつだけは、九死に一生を得るんだが、兄貴の方はね、気の毒になあ。海底の藻屑になってしまうんだよ。これが実に詳細に、まるでポー自身の体験ででもあるかのように語られているんだ。そういう異常な体験のため、そのおとこはね、年はそんなでもないのに、髪の毛が真っ白になっちゃってるんだ、その語り手は。
美 ふんふん。
詠 まあ、全部話しちゃうとつまらなくなっちゃうんで、きょうはここまで。
美 おまえが、それほどまで云うんならおれ、きょうあたり図書館行って借りてみるか。
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