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田んぼで覚えた百人一首 <英訳あり>

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - | 投稿日時 2005/1/12 16:23
安房守  新米   投稿数: 5
  
昭和19年、一家で安房《あわ》(注1)の田舎に疎開《そかい》(注2)した。
タケノコ生活(注3)も直ぐに底をついてしまい、僅かな田畑を耕し出した。

昨日まで都会のアスファルトの上で遊んでいた我々子供達にとって、
野良仕事《のらしごと》(注4)は苦痛だった、特に田んぼが難関(注5)だった。
田植えには子供達も借り出さされる。
始めは田んぼに入るだけでも気持ち悪い。
直ぐ、足腰が痛くなる。

或る時、そんな田んぼの中で、
母が節回しを付けて百人一首を詠《うた》いだした。
母が詠うと我々がそれに倣って《ならって》大声を張り上げる。
一句終わると母はその歌の意味を説明してくれる。
いつの間にか、腰の痛みも忘れて熱中していた。
畦道《あぜみち》を怪訝な《けげんな》(注6)顔で村人が通りすぎる。
源平式(注7)のルール、一字決まり(注8)などの話が間に入る。
紫式部と清少納言の女の争い、小野小町伝説、
尽きることない百人一首に纏わる《まつわる》話に、
足腰の痛みも忘れ、日暮れるまで聞き入ったものだ。

家に戻ると札を広げて確認する。
札の置き方を工夫する。

お正月が待ち遠しかった。
いざ本番、
「むすめふさほせ」(注9)の有る場所を確かめる。
「君がためーー、」
読み手はここで一呼吸置く。
さ、どっちが出るか!
「春の野」か「惜しからざりし」か!
「朝ぼらけーー、」もそうだ。
「宇治」か「有明」か!
あの緊張感は今でも忘れられない。

母の十八番《おはこ》(注10)は「花の色は・・・」
父のは「久方の・・・」
姉は「天つ風・・・」
私のは「ちはやぶる・・・」(注11)
後に「ちはやぶる・・・」が落語で使われていることを知って
不愉快な思いをしたものだ。
幾つかは未だ覚えている。

生粋《きっすい》(注12)の江戸っ子、
我侭《わがまま》一杯で育った母が
習慣も気質も異《こと》なる周囲と協調出来る筈がない。
冷たい周囲の視線を受けながら田んぼで百人一首を唸《うな》る。
今、その心情を慮る《おもんばかる》(注13)と切ない思いが込み上げてならない。
そんな母も次第に周囲に受け入れられて、
東京に戻ることなく生涯を田舎生活で全うした。

今では書でしか係わり合いがない百人一首、
百人一首を書く度にそんな往時《おうじ》(注14)を思い出すのだ。



 ※百人一首は カルタ取りゲーム

歌人100人の和歌を選び集めたもの(この文章では『小倉百人一首』を「カルタ」にして遊んだ。「取り札」には下の句だけが
書いてあって、上の句を読んでいるのを聞いて下の句の書いてある札をとる、そのためには、完全に100首の歌を覚えてい
る必要がある


(注1)安房《あわ=千葉県南部》
(注2)疎開《そかい=空襲の被害を避けるため都会から田舎に移った》
(注3)タケノコ生活《=タケノコの皮のように着物などを一枚ずつ食べ物と交換した》
(注4)野良仕事《のらしごと=農作業》
(注5)難関《なんかん=通るのが難しい関所(難しい仕事)》
(注6)怪訝な《けげんな=不思議そうな》
(注7)源平式《=敵・味方の二つに分かれて争う》
(注8)一字決まり《=頭文字が一枚しかない札は7枚と決まっていた》
(注9)「むすめふさほせ」《=一枚札・一字決まりの札》
(注10)十八番《おはこ=得意とするもの》
(注11)ちはやぶる=《神に掛かるまくら言葉》
(注12)生粋《きっすい=混じりけのない》
(注13)慮る《おもんばかる=思いやる》
(注14)往時《おうじ=昔》










前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - | 投稿日時 2005/1/12 19:52
マーチャン  長老 居住地: 宇宙  投稿数: 358
安房守さん

 すばらしいお母様ですね。

引用:
「君がためーー、」
読み手はここで一呼吸置く。
さ、どっちが出るか!
「春の野」か「惜しからざりし」か!
「朝ぼらけーー、」もそうだ。
「宇治」か「有明」か!
あの緊張感は今でも忘れられない。


 ところで、百人一首では、読み手の役割が大変重要でしたね。
 たいてい、おとうさんとか、おじいさんの役目でした。
 それぞれの歌の意味、作者のことなど、すべて承知していて、しかもゆっくりと朗々《ろうろう》と読み上げる美声の持ち主。
 皆さんが興奮していても、札が飛び上がっても、巻き込まれずに読み上げる姿に子供ながら凛《りん》としたものを感じました。

 
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2005/1/13 19:42
安房守  新米   投稿数: 5
マーチャンさん 

そうですね、読み手によって雰囲気がガラリと変わりましたね。
大抵、読むのが得意な人が居て、その人が朗々と読むと、
それだけで、
如何にも百人一首やってるなって感じでした。
たまに、読み慣れ《なれ》ない人が読み手になり、
節回しがおかしかったり、
タイミングがずれたり、読み違えたりすると、
みんなの腰が砕《くだ》けてしまいます。
ま、それはそれで、一時、緊張感が解けて愛嬌《あいきょう》でした。 
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