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[No.16342] Re: つらくて楽しい添乗員 投稿者:男爵  投稿日:2010/12/29(Wed) 08:38
[関連記事

> > 稲井未来「セカンドクラスの添乗員」(2003)
> > この本を図書館で見つけて借りてきました。

男と女の話です。

「不倫旅行」の場合、お客はひたすらそれを隠そうとする。添乗員はパスポート内容の確認など、お客の秘密を職務上あらかじめ知ってしまう。
そういうお客からは、「自宅ではなく、会社に連絡を」「自宅ではなく、携帯電話に連絡を」という指定がある。
その注意書きを見落として、お客の家に電話してしまうと家庭崩壊になるので、受話器を持つ前に特記事項を再確認する。
女性はよく、彼の名字で呼んでほしい、と言うのだが、男性から、僕の名字でまたは彼女の名字で呼んでほしい、と言われたことはないという。やはり女性の方が気にするのだろう。
著者が失敗したのは、団体チェックインができない空港へ向かう朝、個人チェックインなので、空港では各人に自分の航空券をもっていただく。この添乗員がホテルのレセプションでチェックアウトの最終確認をしている間に、先に航空券を配っておこうと気をきかせたアシスタントが、バスの中で航空券に記載されている名前を読み上げながらお客に航空券を配ってくれた。
当然、航空券には本名が書かれている。だから、それまで彼の名字で呼ばれていた女性が、航空券記載の自分の名字で呼ばれてしまった。他人の名字に過敏に反応するお客は少ないから、たぶん誰も気がつかなかっただろうが、これは大きな反省材料になったという。
添乗員が二人の関係がばれないようにフォローしておいても、どこに住んでいるの、家で二人はどうなのと、お客同士の会話がプライベートな話題になるにつれ、つじつまのあわないことが出てくる。
勘がよくて好奇心旺盛なお客は「あの二人って、本当にご夫婦なんですか」と、こっそり添乗員にきいてくるというから、隣同士になったから何か話さなくちゃと思っても、あまりプライベートな話はしないほうがいい。
(山村美紗の海外を舞台にした推理小説には、やはり男女がこっそり旅行するが、同じホテルに泊まっている客の話から身元がバレていく様子が書かれていた)

夕食後、数名の若い女性客、ドライバー、レストランの人たちと、お酒を飲みながら盛り上がっていた。
ウェイターがお客の一人に「どこか別の場所へ行って、二人で飲まないか」と誘う。
お客もためらいがあるのか「どうしようかしら」と、この添乗員に尋ねる。
添乗員はここで一緒に飲むことを勧めたが、添乗員への相談は単なるポーズで、彼女の心の中では、彼と一緒に出かけることが既に決まっているようだ。
追い打ちをかけるようにドライバーが言う。「大丈夫。問題ないから、行っておいで。楽しい時間を」おやおや、無責任な人。
そこには彼女の姉もいて「じゃ、行ってらっしゃい」と、妹に手を振る。
お姉さんが承知したのだから、もし何かがあっても添乗員一人の責任ではない。
翌朝のレストランで、彼女の姿はなく、お姉さんが一人で朝食をとっていた。
「妹さんはどうなさいました」と尋ねると、一時間ほど前に部屋に戻ったばかりで休んでいるという。
相手は大人だからかまわないが、実は旅行前に対客電話でこの姉妹の家に電話をしたとき、二人は留守で、かわりに母親と話をしたのだった。
母親は姉妹二人でイタリアへ行くことを心配していたが「添乗員さんが女性でよかったわ」と言ったのだ。この母親に対して、ちょっと申し訳ないと添乗員は感じたのだった。
そして観光に出発前、バスに乗り込んできた朝帰りのお客(妹)は言った。
「イタリアの男性って本当にすてきね。ミクちゃんは何回もイタリアに来ていて、イタリア人の恋人とかいるでしょ。私、イタリアに住もうかな。イタリア語、勉強しなきゃ」

四人家族で参加していたお父さんが、小声で言う。
「昨日の夜、変な電話があったんです。昼に約束した女性だと名乗るのですが、僕には心当たりがありません。僕に会うために今から部屋へ来るというのです。間違いだからと電話を切ったのですが、本当に部屋へ来たんですよ。僕は娘と一緒の部屋だったし、女房が隣の部屋にいるからと説明して帰ってもらいましたが」
一人参加の男性をねらって、現地女性がやってくるケースがある。たぶん、レセプションの誰かと裏でつながっていて情報が提供されるのだろうが、家族旅行のお父さんをねらうのはおかしい。
実はこれは理由があった。
この著者の添乗員が、四人家族で二部屋なのに、あらかじめホテルで決められていた部屋割りでは、部屋が離れてしまっていたので、添乗員が部屋の調整をしたからなのだ。
ホテルには部屋を入れ替えたことを伝えたが、それがレセプションの誰かには伝わらなかったのだろう。
初めの予定では、このお父さんの部屋は、女性からの誘いがあれば絶対に飛びつくであろう雰囲気を漂わせた二人組男性客が使うことになっていた。
この添乗員が部屋の調整をしなければ、女性はその方たちを訪ねたはず、そして翌朝、二人組男性客は上機嫌で朝食のレストランに現れたはず。
まずいことをしてしまった、彼女の仕事の邪魔をしてしまった。今晩のこともあるから改めて部屋割りをかえたことをレセプションに再確認したほうが親切かしらと、この添乗員は思った。
ところで、お父さんが本当に言いたかったのはこの後の言葉だった。
「その女性なのですが、本当にきれいだったんですよ。一人で来ていれば、せめて家族旅行でなければ...ちょっと残念なことをしました」
家族参加でよかったのよ、お父さん。
(私も同じようなことを聞いたことがあります。ある国を旅行した時、団長さんの部屋に夜女性の訪問があったという。このときは団長さんは奥さんと一緒でした。最初の予定では、団長さんが一人で部屋をつかい、奥さんともう一人の都庁の衛生関係を退職した女性とが相部屋だったのですが、この高齢の女性に気をつかい、奥さんは団長さんの部屋に来て泊まったのです。翌朝そんな話を聞いて、私はある男性と一緒の部屋だったのですが、私たち男二人の部屋にはそういう話はなかったなあと思いました。たぶん、我々はお金がないとみられたのでしょう)

この章には、添乗先での話ではないが、開放的になる旅先ではこういうこともあるから気をつけたほうがいいという警告を込めた体験談を載せている。
この著者は添乗員になる前に海外のリゾート地で働いていた。世界中からお客が集まり、スタッフも国際色豊か、お客もスタッフも平均年齢が若く、一緒に盛り上がろうという雰囲気が浸透していた。
著者の知る限り、男性スタッフと日本人女性客が危ない関係になることが多かった。
お客は夢のような毎日をすごして帰って行くが、ずっとそこにいるスタッフにとっては日常の光景。お客にとってスタッフは大きな存在でも、多くのスタッフは帰って行ったお客のことをたやすく忘れていく。
もっと内情を暴露すると、仕事が終わってからお客を自分の部屋に呼ぶことはボスから推奨されていたという。
「お客様と仲良くするのも仕事のうちさ。そうすれば、その人はまた君に会いにやってくる。それも一つの営業」と言われていた。
ボスの秘書室には、無料の避妊具が用意されている。
秘書と著者がむだ話をしているところに男性スタッフが入ってくると
「今日はストロベリーの香り? 花の香り? 新しいのもあるわよ」などと、かわいい顔をした秘書があっけらかんと笑顔で言うのだった。


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