Re: 杉林に消えた米兵-2-(中村賢司)
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杉林に消えた米兵-1-(投稿:中村賢司) (あんみつ姫, 2004/8/30 13:53)
- Re: 杉林に消えた米兵-2-(中村賢司) (あんみつ姫, 2004/8/30 14:19)
あんみつ姫
居住地: メロウ倶楽部
投稿数: 485
みかん畑の茂みで、被弾したグラマンが飛び去った先は解《わか
》らなかったが、あの状態では墜落は確実だ。パラシュートでの脱出も無理だろう。私は「ざまぁ見ろ」と心の中で叫び清川中尉の居る地下壕陣地へと急いだ。
地下壕陣地は山と山との間を利用し、本土決戦に備え建設中で、六十メートルの横穴式壕がすでに十本近く完成していた。負傷者収容の病院壕、武器修理の工場寮、食料貯蔵庫や爆弾庫、発電室から通信室、相当堅固な地下陣地である。
清川中尉は第三壕に居た。兵隊たちは皆上半身裸で黙々とつるはしやスコップを振っている。飛行場の空爆にも意を止めず働いていた。
私は清川中尉に封筒を渡した。側溝に飛び込んだり、土手に伏したりしたので封筒はくしゃくしゃになっていた。
壕から出た昔の土器を村に届けるのだという、もっこを担《かつ》いだ二人の兵隊と一緒に山を下った。
ちらほら民家の散在する農道との交差点にきた時である。サーベルを吊《つ》り自転車に乗った汗びっしょりの駐在所の巡査に出会った。私はあの炎に包まれたグラマンの結果が気になっていたので、巡査に聞いてみた。
やはりグラマンは二つほど向うの山に墜落したという。しかし墜落寸前に操縦士はパラシュートで脱出、半開きのまま山間の小さな部落に落下、意識不明になっているところを、部落の人たちが竹槍《たけやり》や鎌《かま》で刺《さ》し殺してしまったというのである。巡査はこれから憲兵《けんぺい=軍事警察》隊に報告に行くのだという。
村の人たちといっても大部分は国防婦人会のおばさんたちだったようだ。日頃の竹槍訓練の成果を私はあっぱれだと思った。しかし巡査の慌《あわ》てようからして、何か秘密にしておかなければならないような気がした。
隊に戻ったら詳しい話が聞けるかと思ったが、二機撃墜したということだけで山間の部落の事件も、女学生たちの被害の様子も聞かされなかった。
それから二三日後再び山の地下陣地に行った帰りに、みかん畑の農夫から、先日の米兵の遺体は杉林の中に埋めてしまったらしいと聞いた。敵兵の死を可哀そうだとは思わなかったが、軍人らしくない殺され方にふとあわれみを感じた。この米兵もビルマの奥地で戦死した兄のように、遺骨は永遠に故鄕には戻らないのだ。
遺骨の入っていない白木の箱に取りすがって泣いた母の姿がふと瞼《まぶた》に浮かんだ。
以上;代理投稿
掲載に当たり、コケッコッコーさん、三上さんにご協力頂きました。ありがとうございました。
》らなかったが、あの状態では墜落は確実だ。パラシュートでの脱出も無理だろう。私は「ざまぁ見ろ」と心の中で叫び清川中尉の居る地下壕陣地へと急いだ。
地下壕陣地は山と山との間を利用し、本土決戦に備え建設中で、六十メートルの横穴式壕がすでに十本近く完成していた。負傷者収容の病院壕、武器修理の工場寮、食料貯蔵庫や爆弾庫、発電室から通信室、相当堅固な地下陣地である。
清川中尉は第三壕に居た。兵隊たちは皆上半身裸で黙々とつるはしやスコップを振っている。飛行場の空爆にも意を止めず働いていた。
私は清川中尉に封筒を渡した。側溝に飛び込んだり、土手に伏したりしたので封筒はくしゃくしゃになっていた。
壕から出た昔の土器を村に届けるのだという、もっこを担《かつ》いだ二人の兵隊と一緒に山を下った。
ちらほら民家の散在する農道との交差点にきた時である。サーベルを吊《つ》り自転車に乗った汗びっしょりの駐在所の巡査に出会った。私はあの炎に包まれたグラマンの結果が気になっていたので、巡査に聞いてみた。
やはりグラマンは二つほど向うの山に墜落したという。しかし墜落寸前に操縦士はパラシュートで脱出、半開きのまま山間の小さな部落に落下、意識不明になっているところを、部落の人たちが竹槍《たけやり》や鎌《かま》で刺《さ》し殺してしまったというのである。巡査はこれから憲兵《けんぺい=軍事警察》隊に報告に行くのだという。
村の人たちといっても大部分は国防婦人会のおばさんたちだったようだ。日頃の竹槍訓練の成果を私はあっぱれだと思った。しかし巡査の慌《あわ》てようからして、何か秘密にしておかなければならないような気がした。
隊に戻ったら詳しい話が聞けるかと思ったが、二機撃墜したということだけで山間の部落の事件も、女学生たちの被害の様子も聞かされなかった。
それから二三日後再び山の地下陣地に行った帰りに、みかん畑の農夫から、先日の米兵の遺体は杉林の中に埋めてしまったらしいと聞いた。敵兵の死を可哀そうだとは思わなかったが、軍人らしくない殺され方にふとあわれみを感じた。この米兵もビルマの奥地で戦死した兄のように、遺骨は永遠に故鄕には戻らないのだ。
遺骨の入っていない白木の箱に取りすがって泣いた母の姿がふと瞼《まぶた》に浮かんだ。
以上;代理投稿
掲載に当たり、コケッコッコーさん、三上さんにご協力頂きました。ありがとうございました。