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3月10日・東京大空襲 福本 幸一

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2012/12/10 7:09
編集者  長老 居住地: メロウ倶楽部  投稿数: 4298

 はじめに

 スタッフより

 この投稿(含・第二回以降の投稿)は「電気通信大学同窓会社団法人目黒会」の「CHOFU Network」よりの抜粋です。
 発行人様のご承諾を得て転載させて頂いております。

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 太平洋戦争も敗色が濃くなった昭和19年の暮、無線校の冬休みの宿題が出されていた。内容は、送信/和文90字、受信/80字のマスターと電気工学、英語であった。送信90字は自信があったが、受信の80字は自信がなかった。受信は1字か2字遅れて暗記して書けと言われるが、そんな器用なことは出来なかった。

 年が明けて1月7日から新学期が始まり、早速、通信のテストが行われた。その結果、合格者は級長の本田久雄君と私の二人だけだった。即刻、教官の罵声が飛んできた。「休み中、貴様たちは何をしていたのだ」。叱咤激励、怒号が飛び交う戦争中に一瞬の油断も許されないのである。直ちに不合格者はその場に正座20分、今にもビンタが飛んできそうな険悪な雰囲気であった。

 教官より怖いのは上級生だった。教室に突然現れて、一人一人尋問されるのだが恐ろしくて身の震える思いだった。
 3月になり卒業試験を間近にして、そんな学生生活の日々を送っていたが、私にとって忘れることの出来ない3月10日を迎えることになる。

 今から54年前、陸軍記念日を目標にアメリカ戦略爆撃機B29の編隊349機はサイパン・テ二アン基地から飛来、3月9日未明から10日にかけ、東京下町を猛爆撃、約2000トンの爆弾、焼夷弾は20万発と言われ、僅か2時間余りの空襲で26万戸の家が失われ、死者約10万人、負傷者約4万人、市街地の約1/4が焦土と化した。

 私は当時、目黒無線校の卒業試験を8日に受け、その放課後、教官より全員集合せよとの命令を受けた。教官は、「只今、ハワイ放送を傍受した。それによると、9日から10日にかけて下町を焼夷弾爆撃をするとのこと。アメリカは事前に通告してきたので、お前達は下宿先のおばさんにその旨を伝えよ」と言われ、生徒たちは皆信じていた。

 下宿に帰って、おばさんにこれこれ然々だから避難してください、と伝えたがおばさんは私の話を信じない。デマ放送だよと言う。デマと言うのも無理もない。昨秋より空襲警報に慣れて、「ア-、またB公か」と対岸の火事のように思って外へ出なかった。

 そして翌9日を迎えた。3月とは思えぬ北風が吹く寒い晩だった。空襲警報が発令された午後11時頃と思う。B29が大編隊を組んで、あの薄気味悪い独特の金属的な音色の爆音を響かせて飛来してきた。ハワイ放送が真実となり、警報と同時に連れと外へ出た。 深川区三好町は狭い路地に家が密集し、焼夷弾1発で大火事になるなと思っていたところ、突然、向かいの家が燃え出した。油脂焼夷弾である。油を流したように-直線上に火焔が下から2階まで燃え始めた。連れと消火活動を始めたが、下宿も周りが燃え始めて万事休す。逃げ場を失った。顔が熱気で熱い。火傷しそうだ。咄嗟に防火用水をかぶり、狭い道路から広い電車道路へ出た。

 ここも火の海だ。物凄い風と火勢だ。火焔が路線を走っているようだ。人間が燃えている。連れが門前仲町の方へ逃げようと言う。しかし、電車路線を走るのは危険だと考え、近くの清澄公園に逃げ、池に飛び込んだ。周りの森が燃え始めた。公園には200人位の人が避難していた。近くの建てたばかりの神社が燃え始めた。

 幸いB公は1発も焼夷弾を落とさなかったが、硝煙と酸欠で息苦しい。B公は機体を軽くするため、燃えている所へ残りの焼夷弾をわざわざ落としていく。何と無慈悲なヤツだ。無抵抗の市民を焼き殺しだ。母親が赤ん坊を庇うようにして、そのまま真っ黒い焼死体となって蹲っており目にするのも痛ましい。

 火はやっと5時頃には鎮火した。我に返り、「俺は生きている。ああ、生き地獄を彷徨っていたのだ。」とやつと自覚することが出来た。下町は見渡す限り焼け野原、ポッンと立っている煙突が印象的だった。

 ああ、二度と戦争は起こしてはならぬ。昨年、北朝鮮がミサイル発射、今年もまた発射する可能性があると言う。生物・化学兵器も保有とのこと。日本政府が早急に中国を交えた話し合いを進めるべきであろうか?
 国際間の話し合いは難しいが、何かよい知恵がありそうだが、どうでしょうか。
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