[No.79]
Re: 君がいてよかった(犬がくれた40の物語)
投稿者:男爵
投稿日:2013/03/11(Mon) 10:36
[関連記事] |
> > > 「君がいてよかった(犬がくれた40の物語)」
> > >
> > > (財)日本動物愛護協会が
> > > 「君がいてよかった」エッセイ大募集の応募作品の中辛
> > > 40編を選出し、収録した本。
> > >
> > > 簡単に紹介します。
○伯母のチビ
お世話になった人が急病になり、犬を預かってほしいと頼まれる。
年寄りの、おとなしいオスの柴犬だった。
断りきれず承諾したが、アパート暮らしでは、犬は飼えない。
困って、持ち家で一人暮らししている伯母に頼み込む。
伯母は、気難しく、息子夫婦との同居も拒み、人づきあいもあまりしない人。
とても頼みにくいが、他に頼める人はいない。
伯母はけんもほろろ、それでもしかたなく、手を合わせ頼み込む。
庭の隅に犬小屋を置かせてもらう。世話は私がすべてする。
毎日伯母の家に通って、朝は出勤前にエサと水をやり、仕事帰りに、散歩とフンの始末。
ある日、突然3日間の出張が入り、その間だけ、伯母に頼まなくてはいけなくなった。
伯母はカンカン、約束が違う。とにかく平謝りに謝る。
散歩はさせなくてよい。フンの始末と水とエサだけやってもらうことを、なんとか了解してもらった。
3日後行ってみると、伯母は犬の散歩から戻ったところだった。
「伯母さん、ごめんね。でも散歩はいいって言ったのに」
「そういうわけにもいかないでしょ」
よく見ると、エサも、私が買い置きしたお徳用のものよりもっと高価そうな缶入りのエサだった。
それから、伯母はもっとチビ(犬)の散歩の時間を長くしたほうがいいとか、ブラッシングしてやれとか指示するようになった。
犬の名はケンタなのだが、伯母はチビと命名していた。
やがて元の飼い主が退院して、伯母と犬の別れのときがきた。
「いなくなってせいせいするよ。こいつのせいでいろいろ時間をとられたしね」
私が車に犬小屋と犬をのせたら、「とっとと連れて行きなさい」と、見送らなかった。
それからしばらくして、伯母の息子から、伯母が元気をなくしてふさぎこんだようになったと電話で言われた。
私は、犬の飼い主に打診したところ、そんなにかわいがってくれるなら、その犬は進呈すると言われた。
早速伯母に電話して、飼い主の都合でまたあの犬を預かることになった。
ついてはまたお願いできないかというと、伯母は少し上ずった声で
「仕方ないわねえ、いつ連れてくるのよ」と聞いた。
ケンタ、いやチビは今も伯母の家にいる。
伯母は憎まれ口をききながら、チビの面倒をみている。
人は言っていることと思っていることが一致してはいない。
相手の言葉の裏にある真意を推察することに慣れたほうがいい。