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関東大震災その2

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タツマロ

通常 関東大震災その2

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - | 投稿日時 2006/3/27 10:39
タツマロ  新米   投稿数: 4
  これは私の祖父の遺稿から見つけたもので震災当時祖父は東京市《=1943年東京都になる》の収入役をしていました。
 当時東京市は丸の内(現国際フオ-ラムのある場所)にあって幸い火災からは逃れたそうである。
 以下本文のまま記載させて頂きます。旧いかな遣いで読みにくい所もあるがご容赦下さい。

 東京市が未曾有《みぞう=今まで経験した事がない》の大震災に見舞われ悲惨なる状況を現したる点を略記せんとす。
大正十四年九月一日の午前十一時五十九分なりと覚ゆ《おぼゆ=記憶する》、土曜日とて市役所は既に本務を終わり卓上の書類等を片づけし者多かれし時分なり、自分の事務所は1階なるるも当時偶々《たまたま》用事ありて二階の事務室に居りて用件の対談中大震動ありて歩行することも出来ざる有様にて室内の隅々《すみずみ》が破損し如何《いか》にせんか《=しようか》とのありしが動揺の僅《わず》か静まるをねらいて飛び出し自分の部屋に戻る。隣室には安田銀行員の詰所ありて金の計算に夢中なり、而して《しかして=そうして》自分は突差《とっさ》の場合如何なる事の発生するやも計られず僅かながらも自分の金を預けある中より取り敢《あ》えず壱千円《一千円》を引き出し受領したり、計らずもこの僅少《きんしょう=ごくわずか》なる現金も如何に役立ちしかその大体を記して参考に資せん《しせん=役立てよう》とす。

 大動揺の後も尚暫く震動の止まず時々我々の心胆を寒からしむるので結局庁舎の外に出る外なしと構内の広き所に天幕《てんまく=テント》を張りて事務を執る事となり夜は椅子《いす》を並べてその上に臥《ふ》する外なし、其処《そこ》で第一に水道部より浄水池に破損の場所あり給水上差支えるとてこれが修復に労働者を集むるに現金を要するとて送金方申し出あり、僅《わず》か千円の金子にては如何《いかん》とも出来ず。然し打ち捨て置くべきにあらずとて右の中より七百円程を分けて渡せり、又一面には仮になり電燈等の不通となるを慮り《おもんばかり=考慮して》ロ-ソクの用意を急務とす。
 即ち《すなわち=そこで》僅かの金の内より購入せんとす、但し人夫一人傭《やと》うにも現金ならざれば応ぜず故に吏員《りいん=職員》を派出して出来る限りその蒐集《しゅうしゅう=集めること》に努めたり。
 夜に入りて市内各所に火災の起こるあり、水道の利用も不可となりて所謂《いわゆる=俗に言う》焼け次第と云う有様にて自分としては金の入用を思い先ず以て《=第一に》市金庫を為す安田銀行に交渉の必要ありとし一主事をして同銀行に出張せしむ其《そ》の報告に曰く《いわく=言うには》(銀行に行く道は何《いず》れも火事のため交通妨げられて行く難し)と、やむを得ず明朝行く様に命じたり。

 その結果は銀行の地下金庫は開扉《かいひ=扉を開ける》は危険なり、約一週間の後にあらざれば開くこと出来ずとの事にやむを得ずとし更に自身、市役所前の三菱銀行に行き市の預金の一部を渡すように要求せし所三菱銀行頭取《とうどり=主席取締役》よりして今回の大震災に対して銀行としての善後策を明日協議する事になり居《お》れば明日午後に来られたしとの返事あり、よりて翌日更に銀行に行きし所特に金十五万円を渡されたり。
 これを手本と為し火災を受けざる興業銀行に行き三菱銀行の事を話し預金の引出しを求めしが三菱同様に十五万円を渡されたり、夫《そ》れより間もなく安田銀行より六万円を持参され大いに金の事についての不安なきを得たり。殊に尚一つの現金は市電気局に話して震災当日の乗車賃金を借りたしと局長に申込み其の承諾を得る。約二万円程を極めて小銭にて融通を受けたり、この小銭の計算には一方《ひとかた=ひと通り》ならざる面倒ありし為電気局にて記入したる金高に間違いなしと仮定したる状態なり、尚又自分は内務省に行きて時の会計課長に対して予め《あらかじめ》差支えある場合の援助等頼み万全を期し置きたる次第なり。
 
 さて市役所内より市内の有様を見るに各方面に火の手挙がり居り防火の方法もなくその焼かるるにまかすより外なしと、一層市役所近傍《きんぼう=近辺》に対し警戒を厳にしたり、自分の課には大なる数個の金庫ありこれは先ず無事なるべしとするも簿記帳とか、その他大切を要する書類は、これを外部に引き出さざるを得ずと二・三の課と共同で一台の自動車を雇《やと》いその中に書類を多数積み込みてイザという場合に宮城前の広場に避難すべく準備し置きたり。

 夜に入りて庁舎の前は京橋方面の避難民、家具その他を肩にし宮城前広場をさして避難する者にて殆ど《ほとんど》広い路面を埋むる有様なり。されば自分等の計画せし上記非常方法は不可能と相成りしも庁舎は火難を免れたるを以て其等《それら》も亦《また》安全なるを得たり。

 この間自分は庁舎の裏面に廻《まわ》りて見るに省線《しょうせん=鉄道省の経営する汽車、電車》高架線の下部にある倉庫に火の入りて順次に延焼しつつありて数人の人々バケツを以てリレ-式に消火しつつあるもその効なく殆ど《ほとんど》その処置に苦しみつつありしが幸いにも兵卒の約二十名列をなして来るるあり、依《よ》って自分は下記の事情を話してこの鉄路の地下より暫時《ざんじ=少しの時で》火の移り来たりてこれを消火せざれば忽ち《たちまち》東京市庁舎の焼かるるの恐れありとて何とか消火の方法に助力ありたしと依頼せし所、兵士の人々これを諒《りょう》として持ち来たりし棒の如きものを打振り打ち振り 軌道下の倉庫の方を破壊しその内部の焼け材料を引き出して容易に火の道をたつことを得て庁舎の危難を免れたり。一面二重橋前の広場は京橋、日本橋、芝等の避難民に依って夫々《それぞれ》の荷物やら寝具等にて一面に満たされたり、中には飲料水に壕《ごう=堀》の水さえ飲むものありとの事なり。
                                   つづく

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