成瀬孫仁日記（五）昭和十六年十二月

引き続き、哈爾浜学院２１期生の同窓会誌「ポームニム２１」に寄稿された「成瀬孫仁日記」を、許可を得て記載いたします。

大東亜戦勃

十二月一日（月）　　　晴　　寒
　昨日の酒の宿酔。どうにもならない程きついが、そこは酒飲みの意気、学校へ行く。
課業中眠ってばかり。
　　竹内教授、ソ聯事情講義用の本三冊分配される。案外、やさしそうだ。

十二月三日（水）　　晴　暖
　校庭のスケート場も漸く完成。スケートは出来るようになったが、スケート靴売ってしまった私は関係ない。一年生の下手くそなのが旺んに転んでいるよ。
　昭和十七年度入学候補者第一次試験合格者発表あり。約四百名あまり。香川県人なし。
　プリント代一円、アルバム代一円、寮費一円、共済会費一円、柔道部費一円、憲法二円二十銭、極光会費二円。

十二月四日（木）　晴　暖
　米国との戦争が起りそうな気がしてならない。併し日本にしても米国にしても、決して容易には動かないであろう。
　米内先生が冬休みに内地へ帰られるので、その間の留守番することになる。

十二月五日（金）　晴　暖　零下十八鹿
　試験時間発表さる。

　　十二日（金）　　露語（竹内）経済（江口）会話（ポ）
　　十三日（土）　　経済史（半田）会話（ポ）
　　十五日（月）　　露語（胡麻本）和露（櫻木）会話（ウ）

十二月六日（土）　　晴　寒　零下十二度
　白梅小学校へ昨日の返事を貰いにいく。校長室で長く待たされた。校庭に児童見えず。廊下が広い。若い女の先生が多い。校長もはきはきした若い人だった。
　米井先生宅の下検分。北満学院《注１》の卒業式とかでクリヤニッキー先生授業なし。大急ぎ帰寮す。

十二月七日（日）　　曇　暖　零下五度
　昼から夕方までスパーチ。夜は皆外出し、飲みに行ったのか中々帰らない。さすがに、試験の前、机の前に座っている者も多い。

十二月八日（月）　　晴　寒　零下十六度
　今朝未明より帝国海軍はアメリカ、イギリス海軍に対し交戦状態に入る。ホノルル、グアム、ウェーク島、ダヴァオ、香港、星港等に対し海陸空軍大爆撃敢行。タイ進駐、揚子江で米砲艦捕獲、英砲艦撃沈。
　緒戦完全勝利を収めた。感激と喧騒の内に午前十一時、対英米宣戦布告!!
大詔《注２》下り戦時状態に入った。ラジオは軍艦マーチをどなっている。授業にはならない。竹内先生が放心したように「君、大変だ」と独り言か何か呟きながら廊下を往きつ戻りつしていた。
　大本営海軍部発表。空襲戦果。戦艦二隻撃沈、四隻大破、大巡四隻大破、飛行機百機以上破壊（以上ハワイ方面）。軍艦一隻撃沈（グアム島方面）。ホノルル沖にて潜水艦が航空母艦一隻撃沈。商船多数捕獲、ヒリッピン方面空襲により飛行機百機以上破壊、我方未帰還機二機。

十二月九日（火）　　晴　寒　零下十七度
　午前六時半起床。昨日の輝かしい戦勝に対し寒きを物ともせず、皇軍の武運祈願のため寮生一同哈爾濱神社参拝する。
　学校で教練の時間に又神社参拝。詔勅の奉読式あり。院長の訓辞あり。
　独国東部戦線で進撃を停止した旨をドイツ軍司令部は報じている。
ドイツもゲネラルマロズに一つ参ったか。
　満州国も日本と一心同体、対米英戦を戦い抜くと詔書（1）発せらる。

十二月十日（水）　晴　暖　零下二十度
　ヒリッピン敵前上陸、英極東艦隊撃沈、グアム島敵前上陸等海軍航空隊の縦横無尽の活躍続く。全く頭の下がる思い。

（1）
十二月九日。この大満州帝国皇帝の詔書に覚えがあるだろうか。

注１：満州国所管で在留ロシア人のための大学であった
注２：日本が戦争を起こすときは　天皇が開戦の詔勅を発する

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あんみつ姫