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無線講選科第三期生(三選会)始末記 河村泰平 後編 その2

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通常 無線講選科第三期生(三選会)始末記 河村泰平 後編 その2

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2013/1/16 5:35
編集者  長老 居住地: メロウ倶楽部  投稿数: 4298

「艦橋の横のポケットに出た後は空気のうまさが身に沁みた。助かったと言う思いで呆然としてしまった。海は静かで太陽はさんさんと輝いている。

 戦いの終った後の海洋は平和そのものであった。その中で今『飛龍』だけが黒煙を上げて燃えている。大海中のポッンと小さな点のように浮んでいるこの艦の艦内が、今地獄のような修羅場を呈して喧騒に満ちている。
       
  艦橋から副長が「火を消せ」と怒鳴っていた。飛行甲板の火消しに私も加わり、ドラバケツで舷外から海水を汲み上げてぶつかりかけたり、毛布を水で浸して火を叩いたりした。艦はまだかなりの速度で走っている。

  突然対空戦闘のラッパが鳴った。見ると可成り高い空にB-17の編隊が見えた。水平爆撃である。驚いたことに艦橋から身を乗り出すようにして見ていた参謀が『大丈夫だ。これはかわるぞ!』と大声で言っていた。ばらばらと爆弾が落ちてきた。危ない!私は思わず身を隠すように伏せていた。しかし参謀の言うように爆弾は殆ど逸れていた。一弾が艦の至近距離に落ちて爆風と水柱をあげて艦の上に注ぎ落ちた。間も無く夜が訪れ様としていた。夜になると火災を起こしている艦は絶好の爆撃目標になると言うので、我々は必死に防火作業に取り組んでいた。

 B17の攻撃はその後もあった。誰かの命令で私達数人が何かを探して持ち出すために下甲板に下った。しかし格納庫の中は腰まで浸かる熱湯であった。艦の動揺に従って熱湯が流れ動き、その中を四肢や首のない屍体が流れ動いていた。とても下まで行ける状態ではない。私はそれ以上、下には行かなかった。わずかに熱湯を避けられる前甲板に避難した。

 月が出ていた。夜に入って艦はいつの間にか停止していた。私は再び飛行甲板で防火作業を手伝っていたが、『飛龍』が停止したので駆逐艦が近寄ってきた。火はまだ盛んに燃えていた。

 駆逐艦が横付けするような格好でホースで水を掛けるが、母艦は高いので届かない。まるで赤ん坊が母親に小便をかけているような状態であった。駆逐艦の努力にも係わらず、火災は完全に消火するには至らず、機関室に火が入ったのか機関は停止し艦は左に傾斜していた。

 『総員飛行甲板に上れ』の号令が夜中に出た。6日午前0時15分であったと言う。整列した生存員を前に山口司令官と如来艦長が立ち、別れの訓示があった。司令官は、『蒼龍、飛龍両艦を無くした責任は司令官にある。私は本艦の最後を見届ける。一同は退去して今後のご奉公を期して貰いたい』旨申し述べられた。

 伊藤首席参謀ら司令官に御供をしたいと懇願したが、遂に許されなかった。
 如来艦長も飛龍の最後は自分が見届けますから、司令官は退艦して頂きたいと懇願したが、司令官は微笑をうかべたままであった。やがて司令官と艦長は艦橋の方へ歩み去った。

 我々はそれらを月光を浴びながら甲板上で見守っていた。月明りの海は静かであった。
 やがて参謀たちの指示で我々は横付けになった駆逐艦『風雲』に乗り移った。
 その間『風雲』から駆逐艦司令阿部大佐が再三司令官と艦長の退艦を懇願したが聞き入れられなかったと言う。生存者を収容した後、阿部大佐は『風雲』『巻雲』に魚雷発射を命じた。『飛龍』は大爆発の後、次第に艦首が落下して行くように思えた。我々は駆逐艦上からそれを見守りながら『飛龍』を後にしたのである。

 戦後の「歴史」によると『飛龍』はすぐには沈まなかったらしい。傾いたまま漂流していたそうである。しかもその中には取り残された人たちがいた。機関長相宗中佐以下45人の機関科員であった。彼等は魚雷の爆発で異常を感じた。機関室から上部へ通じるハッチを鉄ハンマーで破壊し、鉄扉を開くたびに流れ込む熱湯を浴び乍ら、遠ざかる駆逐艦が月面下の海上に遠く望見できた。彼等は艦隊のカッターを下ろし全員海に飛び込んだ。

 相宗中佐たちはカッターで漂流すること15日、米軍の艦艇に発見されたが12人が死亡していたと言う。生存者はハワイの収容所に送られ、lアメリカ本国の収容所を経て戦後日本に帰還したそうである。『飛龍』が海面下に没したのは6日午前6時頃と推定されている。(未完)

 元東京近衛師団司令部幕僚部。師団長陸軍中将
 赤栄八重蔵付 河村泰平(軍歴附記1.謹抄録)。

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