戦前高等教育機関の入試問題 3
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戦前高等教育機関の入試問題 (編集者, 2010/7/23 16:02)
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- 戦前高等教育機関の入試問題 4 (編集者, 2010/7/30 7:47)
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試験官の講評の例
A:受験勉強の弊害を嘆いているもの
○近年入学試験の困難から,受験者の受験技術も中々進歩し,受験準備的機関も発達した。
出題者は限られた範囲内から,なるべく各校の問題と重複のないような問題の選定に苦心することから,自然問題が難しくなり,かつ計算問題を多く課する傾向が生じてきた。
(大正11大阪高工)
○計算問題はやや複雑のものといえども,成績良き者比較的多く,これに反して基礎的概念を以て判断を要する如き問題は,簡単なるものにおいても不成績なる者多し。
この傾向は従来著しき所なるが,本年においても何ら減退の徴無し。
これは,中学上級生は,入学試験に備えんがために,手頃なる手段をもって解答し得べきまとまりよき問題の,起こり得べき事項を機械的に取り扱うことに没頭し,各事項の根本的概念の会得につとむることはなおざりに附するものなりと思考せらる。
而して入学試験に得点多き者にして,入学後成績勝れざることも,またこれに基するものなるべし。
(昭和2 広島高工)
○一定の型の計算問題には良成績を示し,やや普通問題集にある如き型を破りたる問題には不成績を示すは,畢寛いわゆる受験準備的の丸のみ勉強に急にして,確実なる理解ということを平素念頭におかざる故にあらざるか。中等学校において,物理学を暗記物視する弊は,1日も速やかに除去したきものなり。
(昭和3 広島高師)
○計算問題ならびに練習問題集にのせある如き風の手段なる問題は,相当手数を要する問題も,成績案外佳良なり。
これに反し,根抵となるべき物理概念を検せんとする如き問題は,年々必ず不成績なり。
蓋し中等学生は成績の得うることに熱中し,実力修養を閑却するの弊に陥り,たとえ重要なる事項と錐も,いわゆる試験問題となる懸念少しと考えらるる事項の如きは,これを疎かにするに因ると認められる。
(昭和3 学校不明)
○答案の成績から観た中等学校の物理学教授の方法は,概ね形式に堕し,自然科学としての本来の目的に副わないように思われる。
これらは受験本位の学習に免れ難い弊風で,筆者の最も遺憾とする所である。
(昭和9 浜松高工)
○根本原理を理解しているものが極めて小数であって,少し応用方面に入ると全く思いがけない大間違いをするのを見うける。近来は試験準備的の勉強が各方面ともに盛んであって,入学試験に合格することのみに汲々としている所であるが,将来進んで学問をするためには基礎的方面にも充分に力を用い,よく試験に出る問題を丸暗記する如きは,余程注意すべき事柄だと思う。今後問題を作製する場合も,将来よく伸びうる者のみを集めるようにしたいと思う。
(昭和9 長岡高工)
B:中でもとくに暗記を嫌うもの
○受験者の物理学に対する勉強方法が著しく機械的暗記に流れ,事実に対する真の理解を欠くるの観あり。
(大正10 富山薬専)
○一般に記憶にのみ流れ,理解の伴わざる傾向強し。
(大正11名古屋高工)
○物理学を暗記の学科と心得る結果,正しき理解を欠くにあらずやと認めらるる点多きを遺憾とす。
(大正15 広島高師)
○徒らに暗記に走り,ややもすれば主要事項たる常識の涵養を怠るもの少からざるは,毎年の入学試験において感ずる所なりとす。
(昭和2 熊本高工)
○深く考えるよりも,早く暗記することに汲々とした跡が歴然としている。
(昭和2 明治専門)
○物理学を暗記の学問なるかの如く思い誤り,実験を基として考察することを念とせず,概して徒らに教科書の記述する所を暗記し来りて試験場に臨みたる者多きが如く思わる。根本事項を正確に了解するよう努めらるることを望む。
(昭和2 長岡高工)
○暗記的問題ならびに機械的計算問題は出来がよく,推理の能力、綿密な注意を要する問題は出来が著しく悪い。
(昭和3 金沢高工)
○教科書の暗記にのみ専心して,物理的意味を明確にするを怠り,ために基礎的常識に欠けるところがあるように思われる。
(昭和4 長岡高工)
○一般に教科書或は参考書等の字句をそのまま暗記するので,その内容をよく味わい,或は自ら疑問を抱いて考究する等のことは,極めて少いように見うけられる。
(昭和4 静岡高校)
○物理を「暗記物」として取り扱わるる風潮の例相変わらず,嘆かわしく思う。
(昭和6 第一高校)
○従来の試験成績から見ると,教科書にある事柄を,その文句のまま記述すれば足りるような問題,例えば何々の法則を述べよとか,何々の意義を問うというような問題を出せば,非常に成績がよいようであるが,それが果して内容を的確に理解しているのかどうか,将又内容を理解せずにただ文句だけうのみにしているのか,明らかならぬものが少なくなかった。何となればそれに関する実例などをあげしめると全く意外の答が出てくる場合が多かったからである。
(昭和6 徳島高工)
○本年の入学試験問題選定に当りては,単に物理学上の諸事項を皮相的に記憶するに非ずして,簡単平易の事柄にても根抵より理解し居るや否やを験せんことを主眼とせり。また例年の通り応用の能力を試験せんため,計算問題を多く出題せり。
(昭和8年,熊本高工)
○物理学の根本の原理をよく理解して居らぬ者が極めて多いように見うけられる。之は物理学を暗記すべきものと思い誤り,実際に即して基礎的方面に力を注ぐことを怠っている結果かと思われる。
(昭和11長岡高工)