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Re: 終戦と引き揚げ、、北朝鮮編、、いよいよ引き揚げはじまる。野崎博氏の手記

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団子

通常 Re: 終戦と引き揚げ、、北朝鮮編、、いよいよ引き揚げはじまる。野崎博氏の手記

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - | 投稿日時 2005/8/25 0:50
団子  半人前   投稿数: 22
(六)
5月4日、田舎の保安署で所持品検査を受ける。駐在所なのか署員は一人であった。彼も例の「井戸に毒を入れた、刃物は没収と演説したが検査は大まかに済んだ」。人柄がいいのだ。この時、遊郭《ゆうかく=いろまち》の親方をしていたというリーダーは交渉が全く情けない。ペコペコし過ぎる。対抗せよとは言わないが、態度が極端に卑屈だ。膝《ひざ》を折りすぎる。リーダーは自然に案内役の男性に移っていた。私もそれが安心だ。新しいリーダーは奥地で数百人の朝鮮人を使っていたと言う、朝鮮語が達者で道を聞くたびに「朝鮮人のくせに、日本人を案内して、恥ずかしくないのか」と責められ非難された。

鉄原はソ連軍が多数駐屯《ちゅうとん=土地に留まっていること》していたから危険だと判っていたから大きく迂回《うかい=回り道》した。街を右をみて左手に広がる田園の中の自動車道路を南に向かっていた。昼過ぎ後方からトラックが来た。避けようと端に寄ったらトラックが急停車、3人のソ連兵が降りてきた。「ワァー」誰言うことなく叫んでパッと散り田園の中を山に向かって走った。「ここまで来て捕まるもんか。逆送されてたまるか。」必死だった。それこそ命がけだったが、リユックを担ぎ早く走れない。ソ連兵は銃を持っていなかった。田園の中まで追ってこなかった。

危険はさった。山に入ったらボツボツ集まってきた。ほっとして顔を合わす私達に、リーダーは少しでも離れるよう強行軍を指示した。幾つかの丘を超え、山を登った。この夜、月があり明るかった。早起きした。リーダーは皆を集め状況を説明した。野営した山のすぐ下から平地が続き遠くに見える連峰が38度線地帯である。これから山を降りて一本道を連峰に向かう。道が狭いからソ連兵のトラックは通れないが平地が続くので注意するように。ソ連兵が来たら南の山に向かって走れ。山を降りて一本道を歩く。山は安心だが平地は不安だ。姿を隠す所がない。

もう一息で連峰だという部落まで来たら、保安隊に捕まった。村の真ん中を走る道路にそって、保安隊と学校が並んでいた。学校は教室四っ程の分校といった建物だった。その学校の教室に入れられた。例の井戸に毒がで始まり、薬品、刃物は没収と言ういつもの通りだ。隣の教室に村人が、それも女性が多く見物している。国境に近いから入念に調べた。二人の隊員が右側から、もう一人が左から調べた。2度調べることになる。長姉が救急用に隠し持っていた傷薬を、米袋の下に隠した。それを見たのか見物の中から鋭い声がとんだ。隊員が姉にかけより、取り上げパンとビンタを一つ張った。瞬間ヒヤとしたが、あとは何事もなかった。ホッとした。「出て行って宜《よろ》しい」私たちはゾロゾロ出て、元の道に戻り、一本道を南に向かった。隊員の一人が銃を持ち出して我々の方にむけて、一発撃った。銃声が響いた。驚いて振り返る我々を隊員は笑った。

連峰の麓《ふもと》に四時頃着いた。「ここで夜10時まで休みます。各自三食のおにぎりを持って下さい。今夜は一晩中歩くことになるかも知れません。眠っておいて下さい。」と指示された。それは無理だ。眠れない。いつでも出発できるように用意して待つが落ち着かない。頭の真ん中が熱くなる。

十時になった。月が明るい。さぁ出発だ。三時間も山あい、谷間を縫って歩く。部落がある。月明かりに照らされて、土塀《どべい》の家々がしずまり、浮かび上がる陰影が少年倶楽部《1914年発行の少年向月刊誌》の樺鳥勝一の挿絵《さしえ》のようだ。足音を忍ばせて歩くが、30人の足音は、ザァザァとなって犬が吠《ほ》えた。つられて村中の犬が吠えた。心配だったが、村をぬけると吠えがやんだ。夜の一時頃か、小さな川が月に光っていた。そこが38度線だった。

北朝在住日本人、3万7百人を殺し、20数万人を海に山野に流亡させた38度線が、月を浴びて白く光っている。ズボンを捲《まく》くり川に入る。底は砂地だった。巾2m位の川が何も知らぬげに、ゆっくり流れ深さは膝《ひざ》までのただの川だった。ソ連兵の歩哨《ほしょう=見張り》がいるかも知れない。警戒して、声だすな、音たてるな、渡りきった。ここが本当に38度線か、誰かが走った。皆が一斉に走った。空が白みがかった。リーダーが農家に聞いて安心した。国境を越えたのだった。地名も場所も判らないが国境だった。
興南から220k。
、、、、、、、、、、、、続く、、、、、、、

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