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Re: 昭和十六年一月一日~五月三十一日

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あんみつ姫

通常 Re: 昭和十六年一月一日~五月三十一日

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - | 投稿日時 2008/10/24 11:31
あんみつ姫  長老 居住地: メロウ倶楽部  投稿数: 485
小林が声を出し、五藤は口をパクパク

二月一日(土) 晴 暖
 朝自由に起床、自由に登校、八時なり。
 講堂にて始業式あり。院長先生講話。
 二時限、三時限、四時限がっちり授業あり。

二月四日(火) 晴 暖
 朝登校途中、道傍に嬰児の死体あり、露人《ロシア人》か満人《注1》か、涙をそそる。
学校では井尾武雄先生の国文学史の講義が始めてあった。講義が早口でノートに取りにくいのが玉に瑕。

二月五日(水) 曇 雪 風有寒し
 朝登校時、風強く雪が降り、寒さ厳しい。
 今日は日本軍入哈《ちゅう2》九周年記念日。一期生の廣瀬六郎氏より入哈及び籠城当時の話を聞く。

最後に結ばれて日く「吾が学院が最初に御国に御奉公したのは日本軍入哈当時の活動である。又第二回目の御奉公は北鉄《注3》買収の時の活動である。今や第三回目の御奉公の秋が迫りつつある。今度は第一回目、第二回目のように生易しいものであるまい。学院は学院生卒業生全員生命を賭してかからなければならない」

 二月六日(木) 晴 寒し
 今日は恐れ多くも我が敬愛する皇帝陛下《注4》の御生れになられた日である。萬壽節と称する。講堂にて全員式典を挙行、皇帝陛下の萬歳を三唱する。
 田北三市君風邪気味で就寝。

 二月八日(土) 晴 寒
 朝寮を出る時気が付かず運動靴のまま登校、途中足が痛くなりかけたので大急ぎで登校したが足が危く凍りそうであった。クリヤニッキー氏の言によれば零下三十二度あったと。

 二月十日(月) 晴 暖
 今日は元宵節(旧正月十五日)学校は休み。

 二月十一日(火) 晴 暖
 講堂で十時から紀元節《注5-》の式典あり。学校で武道大会。其の酒の買出しに春日、深坂と一緒に行く。
 森川商店で無いというのを無理に二本、九平商店で二本、その他で二本手に入れる。薄汚ない支那店で「豆乳(ジャンズ)」を飲み三時帰校。
 六時半から三年生柔道部送別会あり。場所は「銀鍋」。

 二月十五日(土) 晴 暖
 校内第一回スケート大会あり。一廻りレースに出て一等になる。賞品は軍足《注6》一足。氷の上を滑るのではなく走っているのが多い。
 晩「翁庵」で四国会。三年生、庭瀬宗一先輩の送別会。一年生は二年生と別に帰る。後で聞くと二年生は巡邏隊《注7》に捕ったそうだった。
 寮でシンガポールを日本空軍が爆撃したと噂が立ったが、結局デマだった。

 二月十六日(日) 晴 大変暖
 市立病院へ入院した田北三市君の見舞として「リンゴシロップ」を買うため皆から二十銭づつ集める。

 二月十七日(月) 晴 大変暖
新聞にホロンバイルの雪原を血で染めた蒙古人の心中が二組あったと報じられている。
蒙古人も心中するのか。

 二月十八日(火) 風強く寒し
 四時から学校の食堂で寮委員の送別会あり。会費六十銭、カフスボタンを贈る。
 映画の代金後払券は二十日以後新学期まで停止すると通知あり。
 此の聞から二年生は下宿させると云う問題の提起があり、皆懸命に探している。

 二月二十日(木) 晴 寒
 体操の時間校庭でスケート。もう雪や氷が融けかけている。最後のスケートになるか。
 放課後田北三市君を見舞う。もう元気になっていたが、さすがに色が白くなり痩せていた。歩くとフラフラするとか。土曜日退院予定。

 二月二十一日(金) 晴 寒
 第一時限目国民道徳は院長が遅刻(?)してなし。
 会話の時間にA、B両組合同して授業。眠くなりロシヤ語を子守歌に一時間程眠る。

 二月二十四日(月) 晴 暖
 三年生の送別会あり。豆と煎餅と饅頭。

 二月二十六日(水) 晴後雪 寒
一時から種痘あり。医師三人、ナース三人、何も痛くないのに皆の表情は一笑、一憂。昨年夏学院の勤労奉仕に同行した医大の山脇さん、一人前の様な顔して「シャキッ」としていた。
 今月より五藤一夫君が室長代理をするように室長福真書四郎さんに云われる。

 二月二十七日(木) 雪 暖
 珍しい事に室長代理五藤一夫君早起して橋本君を起した。前代未聞の事、愉快なり。                  
森新一先生の時間、露西亜語《ロシア語》の暗誦、五藤君が当てられた。五藤君が黙って立っていると小林義徳君がその直ぐ後声をあげて読んでいる。勿論すぐばれた。その心臓振りに皆笑いこけた。森先生も苦笑して何も云われなかった。先生の視力が弱いので解からないと思ったのだろうか。
 卒業生の氏名発表あり、五十一名全員卒業することになる。

 二月二十八日(金) 晴 暖
 本日春丁祀孔、文廟に参拝する。文廟とは孔子廟のことで明の永楽八年孔子の諡を文宜王としたことからこう呼ばれている。玄関で点呼の時は五十名、文廟へ着いた時は二十名、何時、何処でずらかったか見事である。
 北方亜細亜研究会一時より第十一教室であり。

注1:現在の中国東北部旧満州国人
注2:ハルピンに入って
注3:ロシアから譲渡された北満州鉄道
注4:我が国が国策として創設した満州国の皇帝
注5:嘗て建国記念日を紀元節としていた
注6:旧軍隊で使用した靴下
注7:軍隊が街の治安を見回り巡回する隊
注8:中国モンゴル自治区北東部にある街

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あんみつ姫

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